「彼女を放していただけますか」
「それはできませんな。上からの命ですから」
「では、少々手荒ですが・・・主」
「構わん、彼女を取り返せ」

騒がしい声を辿れば、警備の者に囲まれ捕らえられている娘が見えた。隙間から見える見覚えのある髪色にユイナだと気づいた。口に布を噛ませられ、手も後ろで縛られたユイナを強引に警備から引きはがし、サカキが彼女の背をこちらへ向けて押した。長年自分の従者をしている者の腕など確認するまでもなく知っている。

「ユイナ」
「んんん・・・」
「待て、今外す」

突き飛ばされた彼女を抱き留めて、後頭部で縛られた布の端をほどいた

「あ、ありがとう・・・でも、どうして」
「偶然、声が聞こえたからな」
「・・・・・」
「お前かもしれんと思った」
「そうですか・・・でも、私と関わらない方が」
「お2人とも仲がよろしいのは良いことですが、急ぎますよ」
「なっ・・!」

彼女の手を縛っていた縄をサカキが切り、その場を後にして、借りている宿へと戻った。
彼女の手首には縄の後が少し残っているが、特別外傷はなく、あの場に外套を置いて来たためプラチナブロンドの髪も緑色の瞳も、整った顔立ちも隠すことなくその場にあり、改めて彼女の姿を見て、1つの結論にたどり着いた。2か月間手紙が届かない理由も、帰れない理由も少し焦っていることも納得がいく。

「ユイナと言うのは偽名だな」
「どうして?」
「アラント家のニーナどのではないのか?」

後ろからサカキが身分を隠すのであれば下に出ろと言ってくるが、そんな器用なことはできるわけもなく、いつも通りに話す。特に驚いた様子もなく、慌てて繕う様子もない。ソファーに座り、じっとこちらを見ている。

「なぜ、そう思うの?」
「風の噂に聞いたのだ。プラチナブロンドに翡翠の瞳の美しい娘が街の厄介事を解決して周っている、とな」
「似た容姿の娘なら他にも」
「お前のような娘が何人もいてたまるか」
「・・・仮に私がアラント家の人間だとしたら、随分偉そうね」
「なっ・・・」
「嫌味じゃないよ。責めてるもつもりもないし、あまり下から言われるのも好きじゃない。・・・実際、私よりも上なのかもしれないし?」

にやりと笑ったニーナから、視線を外した

「・・・・・・・」
「ユイナは偽名。本名は、ニーナであってる。でも、この町にいる限りニーナとは呼ばないで」
「わかった。だが、本当に」
「うん」
「・・・まさか、こんなところで会うことになるとはな」
「探してたの?」
「い、いや、そういわけでは」
「そう?・・・でも、さっきは助かったわ、ありがと」
「ど、どういたしまして」
「サカキさんも、ありがとう」
「いえ、ご無事で何よりです」
「それより、ユイナはどうするつもりなのだ?下手に外は歩けんだろう」
「うん・・・私も、まさかあそこまで囲まれると思ってなくて、これからどうするか色々考えてたところ。やっぱり、領主のところに殴り込みにでも行こうかと思ったり」
「家名を出せば話は通るのではないか?」
「それで上手く行ったこともあるよ。向こうが気づいて信じれば・・・でも今の現状、事が大きくなりすぎて私の名前じゃどうにもならないかもしれないし、兄や父を頼ったとしても手紙が届かないかもしれない。最悪、私が捕まって何事もなかったかのようにされるかもしれない」
「・・・・・」
「とりあえず、作戦練るためにも帰るね」
「何?!」
「え?」
「今、外を歩いては危険すぎるのではないか?」
「さっきは気を抜いてただけだから大丈夫・・・サカキさん、私の鞄拾って来てくれてるし」
「やはり、貴女のでしたか」
「えぇ、ありがとうございます。着替えたいので、隣の部屋借りるね」
「構わんが・・・」

鞄を持って、隣の部屋に入っていたニーナが何を考えているのかわからない。・・・やはり、私が領主に掛け合うべきなのか?焦りすぎか?

「ご自分で気づかれるとは思いませんでした」
「私を侮るでないぞ・・・なんだ、気づいていたのか」
「今朝、剣を向けられかけた時には」
「初めからではないか!」
「あの容姿の女性なんて、あまりいませんし。タンバルンでは比較的稀な髪色です」
「それはそうだが」
「しかし、身分を明かしても良かったのでは、ありませんか?」
「何?」
「彼女の手数を増やすことにもなるでしょうし」
「・・・べ、別に構わんだろう明かさずとも」
「?」
「しかし、何をしておるのだ?」
「着替えると」
「それは聞いておるわ」

相変わらずのサカキの言葉に肩を落としつつ、自分がどうするべきかを考える




「・・・・・・っ」
「雰囲気を変えれば、割と気づかないみたい」
「・・・・・」
「服と髪型変えて、化粧したら、わからないものなの。こいうのは。相手は男だし」
「・・・・だが、肌をもう少しだな」
「この上から、こうやって布を巻けばいい」
「・・・・・・・」
「・・・・意外ね」
「何がだっ」
「・・・・こっちの話だから気にしないで・・。顔、真っ赤」

露わになった肩や背中、胸元も少々不安すぎるのではないのだろうか・・・その上から布を被ったとはいえ、逆に危ないのではないのか?大体、アラント家の娘がするような格好ではない。はしたないと怒られる類だ。思わず直視できずに視線をそらした。

「戻るだけだから、大丈夫。もうあんなヘマはしない。・・・そうだ、明日はいつ出る予定なの?」
「日が昇るころには出るつもりです」
「そうですか・・・・・・では、今日は本当にありがとうございました」
「ニーナ」
「・・・・・」
「・・・・ユイナ」
「うん?」
「私が何とかする。あまり無理はするな」
「・・・楽しみにしてるわ」

妙に色気の含んだ去り方をしたニーナに、立ち尽くした。窓辺にいたサカキが「流石ですね」と言うので近づいて見て見れば、見事に集まりつつあった警備の者たちをあしらって、堂々とマーケットの方へ歩いくニーナの姿があった。

「ラジ王子」
「何だ」
「どうされるおつもりですか」
「それを今考えているところだ!お前も考えろ」
「・・・・・・」
「・・・・・何だ、さっきから」
「まだ、顔が赤いようですが」
「うるさいっ!!」


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