「なる〜、ご飯一緒に食べよ」
「おー」
昼休み、私は弁当を持ってなる…成神のもとへ行く。なるとはクラスが一緒だ。
「つーかさ、桜庭。今日は佐久間先輩のとこ行かねーの?いっつも走って佐久間先輩のクラスに行くくせに」
「うんそうなんだけどね、今日は佐久間先輩、休みなんだって」
「ふーん」
なるは適当な相槌をしながら鞄から弁当を取り出した。
「あ、その卵焼き美味しそう。ちょーだい」
「ん、勝手に取ってって」
特に変哲もない会話をしていたとき、なるは突然「そういえばさ、」と言う。
「桜庭ってなんで佐久間先輩のこと好きになったの?」
「…………」
私は貰った卵焼きを落としそうになる。
「…あっぶなー。落ちなくてよかったー」
「で?なんで?」
「え〜恥ずかし」
「ハッ、何をいまさら」
「君そんなに口悪かったっけ?」
まぁ別に隠すことでもないんだけれど。
私は落としかけた卵焼きを頬張り咀嚼する。そしてゴクンと飲み込み、私は話し始めた。
好きになった、理由を。
***
私がこの帝国学園に来た…入学式のときの話だ。
「…ここどこ〜…」
辺りを見渡しても誰もいない。そう、迷子になってしまった。
理由といえば、入学式中にお手洗いに行きたくなって先生に許可をとって抜け出してきた。そこまでは良かった。お手洗いに無事行けたのはいいが、この帝国学園が広すぎるあまりに、入学式会場…体育館までの道がわからなくなってしまった
「入学式中だから誰もいないし」
だからと入学式が終わるまで待つのも気が引ける。
「暗くなるな雅乃!一人ぐらい誰かいるでしょ」
一人で私は意気込み、もう一度周りを見渡す。
と、その時
「ん……?」
なんだろう。ボール?…を蹴る音。
でもさすがに部活とかはしてないはず。
「でも…、」
誰か一人はいるって事だ。その人に体育館への行き方を聞くしかない。
私は、その音が鳴る方へと向かう。
そこには
「……あ…」
動くたびに淡い色の髪がふわりと浮く。
4月でまだ暑くなんてないのに流れ落ちる汗。
必死にサッカーボールを蹴りあげる人物がそこにはいた。
「……なんだよ、お前」
「!」
いつの間にか動きを止めていた相手は不機嫌さの伝わる表情をしている。
「え、や、う、えーっと…」
上手く言葉が出なかった。
目の前にいる男の子。先輩かな。さっきの姿が頭に焼きついて離れない。
妙に心臓がバクバクと高鳴って顔が熱い。
「どうしたんだよ」
「っ!い、いえ!何でもないです!」
私の反応にその男の子は私の顔を覗き込んだ。近すぎるその距離に私は思わず2,3歩後ずさる。
「見覚えないヤツだな。新入生?」
「あ、はいっ」
「なんでこんなところにいんの?今入学式だろ?」
「え、えーっとそれは…」
話すには少々間抜けすぎる気がして若干抵抗があるが仕方がない。
私は事情を話した
「あははははっお前、馬鹿っ!?」
「うぅ〜笑いすぎですよ〜」
事情を話すと先ほどと一変して笑った。さっきの不機嫌そうな顔が嘘のように。
こんな顔もできるんだ。
心の中で、そんなことを考えた。
「うん、事情はわかった。体育館まで送るよ」
「ほ、本当ですか!?」
その男の子…というか先輩は「笑いすぎた腹イテー」なんて言う。
「ほら、さっさとついてこい」
「は、はいっ」
そして先輩は私を体育館の前まで送ってくれた。
私の居たところは結構体育館まで近かったらしい。あっさり着いた。私が迷子になっていた時間は何だったんだろう。
「ほら、早く行って来い」
「はい…あの、ところで先輩はなんであんなところにいたんですか?」
「ん…やりたいから」
「え」
「ただサッカーが好き。…理由はそれだけ」
「好き…だから…」
「そ。あ、ほらお前早く行けよ!」
先輩は私の背中をグイグイ押してくる。
「い、行きますってー」
私は体育館の扉を開けようとする。
…あ、そうだ。
「先輩っ!」
既にどこかへ行こうとしていた先輩が振り向く。
「なに?」
「……名前っ!」
「は、」
「名前っ……なんていうん、ですか」
先輩は一瞬呆れた顔をして。
そして言った。
「佐久間、次郎」
***
「……と、まぁこんな感じにね〜佐久間先輩の事が好きになったの!」
「ごちそうさまでした」
「聞いてた?」
「あー、聞いてた聞いてた、うん」
「絶対聞いてなかったな…」
とりあえず私は弁当箱の中のおかずをかきこむ。
きっとあの時恋に落ちたなんて、佐久間先輩はきっと知らない。
佐久間先輩の姿が、表情が、笑顔が頭の中に焼き付いて離れなかったの。