04

帰り道、私は鼻歌を歌いながら下校する。住んでいるマンションのエレベーターへと向かう。同じマンションに住むおばさんに「あいかわらず元気ねぇ、雅乃ちゃんは」と言われたので「はい!」と返事をしておいた。
「………あれ?」
部屋の前まで辿り着き何時ものように鞄を漁り鍵を取り出そうとするが見つからない。
「失くした…?」
いくら探しても出てこない。ああそういえば帰り道調子に乗ってスキップなんかもしていた。そのときに落としたのかもしれない。私のドジっ子!

私はトボトボと鍵を探しに行った。
「見つからない…うう…」
とりあえず帰り道をたどっていくが、お目当ての鍵はなかなか見つからない。けれど鍵が見つからなければ我が家に帰る事ができない。全力で探さなければならない。
地面を食い入るように見つめていれば
「びゃっ」
どん、と案の定誰かにぶつかってしまった。
「いたた…」
「あ、ごめんな。ちゃんと前向いてなかったから」
「こちらこそ、私も下向いて歩いてたから…」
そう言って顔をあげるとそこには
「辺見先輩!」
前髪を上げたスタイルの特徴の辺見先輩だった。
「なんだお前かよ、謝って損した」
「なんだと!」
ぶつかった頭を押さえ言い返していると、辺見先輩の後ろにもう一人。
「辺見、何やってんの?」
後ろから声が聞こえてきた。
「…佐久間先輩!!」
そこにいたのは佐久間先輩だった。今佐久間先輩が怪訝そうな顔をしたのは気にしないでおこう。
「佐久間先輩っ、どうしてここに!」
「デコの買い物に付き合ってただけ。それじゃあな」
佐久間先輩は手を軽く振り、まわれ右をした。
「え、佐久間どこ行く気だよ!」
「とりあえず苗字が桜庭で名前が雅乃のウザい女がいないところだな」
「それって人物が思いっきり特定されるよな…。桜庭も!お前も誰のこと言ってんだろうみたいな顔すんな!どう考えてもお前のこと指してんだろ!」
辺見先輩は焦って佐久間先輩の腕を掴んで引き留める。佐久間先輩は足を止め、ハァ、と溜息をつく。
「……そういうお前はこんなところで何してんの」
「家の鍵を何処かで落としたので探している最中です!!」
「鍵?そういえばさっき拾ったよな」
佐久間先輩の台詞に辺見先輩もそういえば、と答える。佐久間先輩はポケットを探る。
「…あ、あった。これ」
「わ、私のです!」
「あー、お前のか。……別に拾わなくて良かったか」
悪態づく佐久間先輩の台詞は聞かなかった事にする。
「ていうか、鍵失くすのも問題だけど親とかにどうにかしてもらえないのかよ」
辺見先輩は問いかける。
「私一人暮らしなので、そういう訳にもいかないんですよねえ…」
「ふーん……あ、メール」
辺見先輩はスマホを確認する。
「悪い、親にさっさと帰ってこいって言われたから先帰るわ」
そう言って辺見先輩は小走りで帰っていった。
「あの、佐久間先輩」
「なんだよ」
「佐久間先輩も今帰るんですか?」
「あぁ」
「じゃあ、私家まで送ってきますよ!」
「ちょっと待てなんかおかしくないか」
「だって帰り道、危ないじゃないですか!」
「女側がする事じゃないだろ」
佐久間先輩は溜息をつく。
「……お前の家ってどこ?」
「え、向こう、ですけど…」
私はその方向を指さす。
「さっさと行くぞ」
「え、あ、あの、どこに…?」
「どこって、お前の家。」
「……な、なぜ?」
「〜っ、お前、理解しろよ!」
「な、なにをですか」
佐久間先輩は前髪をぐしゃ、とかき上げると私の手を強引に掴んだ。
「お前の家まで送ってくって言ってんだよ!」
耳まで赤くして、佐久間先輩は私がさっき指さした方向へむかっていく。
「……っ」
握られた手を思わず見て、私まで顔が熱くなる。
こんな佐久間先輩初めて見た。いつもよりも近い距離に心臓がバクバクと高鳴る。
こんな感覚、どこかで、感じた。
「………、」
あぁ、そうだ。

佐久間先輩に、初めて出会ったときだ。


「佐久間せんぱーい!私佐久間先輩のこと好きです!」
「聞き飽きた」
「私は言い飽きません!」
今もまだ握られていた手を、少しだけ強く握った。佐久間先輩は一瞬ピクリと反応したが手を離さなかった。