嫌でも、時間は進む
あっという間に天河原中との練習試合の日になった
「佐野、」
不意に誰かに声をかけられる
『あ…っ、喜多さん』
そこにいたのは喜多さんだった
「…なんか久しぶり、だな」
喜多さんがそっと微笑む
『はい、逢える機会がないですもんね…』
「佐野は前と変わってないな
雷門での生活はうまくいってるのか?」
『はい、なんとか』
こんなふうに話すのはホントに久しぶりに感じる
「あー、若葉だ〜っ」
聞き覚えのある声かと思えば、ドンっと背中に衝撃がくる
『に、西野空くん…っ』
西野空くんが後ろから抱きついてきたのだった
「うわぁ久しぶりだよねぇ」
変わらない笑顔で私を締め付けるかのように……
『に、に、西野空くん!?
苦しい! 苦しいからっ!』
「わざとー」
『いだいっ ちょ、痛い痛い!』
比喩じゃなくて本当に締め付けてくるんですが!
「西野空、離してやれって」
『っ、』
その声で、西野空くんは「えー」と言いながらも渋々と離れる
聞き覚えのある声
その声は、私の記憶の中にいる人物だとはっきりとわかった
『…っ星降、さん』
星降さんだった
見間違うはずがない
「あー……久しぶり、だな」
先に口を開いたのは星降さんだった
私はえっと、とかうぅ…とか言葉にならない声を出してからやっと『そうですね』と呟くかのように言った
そうして、沈黙ができる
どんな表情をしていればいいの
何を話せばいいの
いざとなると何もわからなかった
「……俺、監督のところに行かなきゃならないから」
星降さんが沈黙を破った
『そ、そうですか。…私も、準備とかしてきますね』
そう言って逃げるようにその場を去った
「みなさん頑張ってくださいーっ」
葵ちゃんの明るい声援に続いて、水鳥ちゃん達も応援に加わる
『………』
私は、何もせずただその場にいた
特に何かを考えていたわけではない
ちらりと試合の様子を見ると星降さんの姿が見えた
『…やっぱカッコいい、な』
未だにそんなことを思ってしまう
諦めるだとか。…でもそれは単に怖がっているだけで
マサキくんの言っていたことには何一つ間違いなんてなかった
…でも、実際はこうして機会があっても何もできない
「…若葉ちゃん? どうかした?」
不意に茜ちゃんが私の顔を覗き込む
心配そうに眉を下げる
『何でもないよ』
「本当に?」
『…うん、本当』
…とは言ったけれど茜ちゃんは何かあると感づいているみたい
『…私っ、タオルとか持ってくるね』
「あ……」
私はこれ以上勘ぐられないようにこの場を立ち去ろうとした
その時、
「ーーー佐野っ」
誰かの声がした、と同時に頭に衝撃が走る
意識が遠のく
サッカーボールでも頭に直撃したのだろうか
『っ……、』
そして、私の意識は途絶えた