流石強豪ということもあって部活は夜遅くまで続く。私はマネージャーの仕事と、ドラ息子ーズのご機嫌とりの二役を任された。マネージャーの仕事自体は他の一年も手伝ってくれるし、唯一の女子部員として甘やかされている自覚はある。しかし、ドラ息子ーズの相手はそうはいかなかった。代わりになれる人なんていないし、あいつらの横暴を止める人もいない。今は誠心誠意媚び売って、パシリくらいですんでいるが、自分より年下の女をいじめてなにが楽しいのか全然わからない。暗い夜道で自転車を漕ぎながら思わずため息が出てしまう。お陰様でまだ花宮くんのプレイをしっかりと見ることができてない。
交差点の信号が赤になっているから、ブレーキをかけてペダルから足を下ろす。交通量が少ない夜間の道を街灯だけが照らしていた。
「よぉ」
早く変わらないかなぁとハンドルを指で叩いているといきなり声をかけられた。同じ部活の人だろうかとそちらを向くと、そこには学ランを着た清志くんが立っており驚く。彼は耳からイヤホンを外すと、こちらに近づいて来る。
「え?清志くん?」
「なんでお前がここにいるんだ?」
「私は部活帰りだけど……」
「ああ、一緒か」
そう言って彼は肩から下げたボストンバッグを叩いた。そこには大きく私が通う中学の隣の公立中学の名前がプリントされており、思わぬ近さに感嘆の声が漏れた。しかも歩きってことは近所に住んでるんだろう。
「こんなところで会えるなんて思ってなかった」
「俺もだよ。なまえはなんの部活?」
「バスケ部。マネージャーなんだ」
「へぇ。いいな」
「まぁ、散々なんだけどね……」
「散々?」
私はバスケ部の現状を伝えるべきか悩み、結局「ううん、何でもない」とはぐらかしてしまった。清志くんは訝しげな表情をしてから「ふーん?」と唇を尖らせるから、何かあると勘付いているのだろうが聞いてはこない優しさが少し苦しかった。
そんなことを話していると信号が青に変わる。私は自転車を降りて、二人で並んで渡った。ここの信号、変わるの遅いんだよなあ。
「裕也くんはバスケ部じゃないの?」
「ああ、あいつはもう先帰ってるよ。俺は居残り練習。一年の前期は居残り禁止なんだ」
「居残り練習かぁ。なんだか青春だね」
「ばば臭ぇな」
「あ、はは!そうかなぁ?」
つい口から出た言葉を笑ってごまかす。今は私も青春の只中なのに、どうしても大人の目線になってしまう。そうだ、もし私が子供だったら、ドラ息子ーズの相手なんて務まらなかっただろう。良かった、と言っていいのかわからないが、でも、私がまだ子供だったら耐えていられたかどうか……。
「…………なんでニコニコしてんだ?」
「えー?なんでもない!」
ニコニコはしていないと思うが、頬が緩んでいるのは事実だろう。笑っていられるからまだ大丈夫だ、自分を鼓舞する。明日も明後日もその次も。あいつらの横暴は続くかもしれない。けれど、そんなことで折れてやるほど私だって弱くない。
「まぁ、なんでもいいけど。その制服、隣の私立だろ?」
「え、うん」
「お前の家まで結構遠いだろ。こんな時間に一人で大丈夫かよ」
一応花宮くんと、校門から出て最初の分かれ道までは一緒に歩いているのだが、それ以降は家まで一人だ。自転車だし住宅街だしそこまで危険はないと思ったのだが、よく考えれば女子中学生が夜に一人きり……、確かにニュースでその文言を見たら私だって心配するだろう。
「でもこっち方面って人いないし、ちょっと訳ありで」
多分、私と進んで関わろうとする人はバスケ部にはほぼいない。自分で言うのもなんだが、今の私はドラ息子ーズにとって都合のいいおもちゃ。持ち主の機嫌を損ねたくないのだろう。私と話してくれるのは花宮くんと今吉くん。それからAクラスでもあり同じバスケ部でもある子たちだけだった。
「なんだお前、ハブられてんの?」
「……直球だねえ」
清志くんは躊躇うことなくそう口にする。当たっているようでハズレだ。私は首を振って否定した。彼はそれ以上追求をしてこなかったが、代わりに「そうだ」と携帯を取り出す。
「連絡先、交換しろよ」
「あ、うん!」
私もポケットを漁り携帯を取り出す。そういえばまだ花宮くんとも今吉くんとも交換してない。お互い無言で赤外線を飛ばし合う。メールアドレスなんて久しぶり。連絡先に新しく清志くんが追加された。
「んじゃ、また連絡するわ」
「うん、ありがとね」
清志くんが曲がり角で足を止める。どうやらここでお別れらしい。バイバイ、と手を振ると無言で振り返された。私も早く家に帰ろうと自転車に跨る。すると背中に「なぁ」と短く声がかかった。
「お前、いつもこの時間?」
「帰り?うん、そう」
「ん」
それだけ言うと清志くんは曲がり角に消えていってしまった。どうしたんだろう?と不思議に思いながらペダルを漕ぎ始める。部活は相変わらずだったが清志くんのおかげで悪くない1日になったような気がする。心の中で感謝を述べながらグンとペダルを踏み風を切った。
prev |
next
←