なでしこ


 なんてことはない。僕は、人の恋を真似れば、共に居られると思っただけなのだ。好き、なんて言葉をそっくり嘯いて返せば、それがきっと、きみの手足を縛る、強固な枷になるのだと。
「本当、逃げ足が早いね。ニンゲンってさ」
 実際のそれは、数十遍の春を越える事すら出来ない、酷く脆い物だったけれど。眦を緩めてそっとなぞる、磨いた石に刻まれたきみの名と……同じ音の花を手向けに。僕は、今日もここにいる。
「また来るから、ちゃんと居て」
 きっと明日も、ここにいる。——嗚呼、僕も随分とまあ、人の真似が上手くなったものだ。
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