僕が白と言えば、彼の中で鴉は白く染まるのだ。空は翠に、地面は碧に。生まれた時からそうだった。この広い世界を唯一、見る術だけ持たない人間なのだ。両親と使用人、とりわけ僕の話を聞いて、世界を想像し、創造する。
「セル、またおれに嘘を教えたでしょ」
「バレました? 本当はトマトは紫色なんですよ、坊ちゃん」
「また嘘。無駄だよ、ニナが赤だって教えてくれたから」
「それは残念」
「……セルはなんで、おれに嘘ばっかり教えるのさ」
薄い唇が山を作る。一目で不満と取れる表情に、つい笑った。悪意がある訳じゃないさ。宣えば、榛色の頭がこてんと揺れる。
「好きなんだ、僕は。貴方が語る貴方の世界が」
「聞きたいから、わざと?」
ふふ、と返事の代わりに笑ってみせれば、我が主は呆れたように一息ついて、しかし直ぐ考え込むように続けた。でもまあ、確かに。
「おれ、セルが教えてくれる色が一番ワクワクするかも。例え嘘でも」
——貴方の言う「赤」は、果たしてどんな色だろう。きっと僕達が言うそれとは違う。青も緑も黄色も、そもそも見た事がないのだから。知らない色で染まる世を想像も出来ない僕は、だからこそ。楽しいよ。その瞬間、彼がぽつり、落とした感情は、己の心の内で紡いだものと全く同じものだった。ああ、だからだろうか。
「それなら、光栄だな」
思わず、声色が緩んだ。