1-4 シンカリオンZの初戦闘で時間は夕方になってしまった。
電話で先に帰っておいて! と置いてけぼりになったアユに連絡しているシンとは別の部屋でナマエは父に電話をかけていた。
古い知り合いだと言う島が何回コールしても出てこず、しかたがなく娘の方から呼び出そうとかけている状況だ。
『……もしもし、ナマエか。どうした』
「もしもし、お父さん? ごめんね、今忙しい?」
『いや、自主的に休憩をとって──』
「そうか、それはよかった」
スピーカーモードにしていたからか島がナマエに断って通話に割り込む。チッと父の大きな舌打ちが聴こえ、彼のこめかみに青筋が浮かぶ。
「島だ。久しぶりだな? 今どこにいる」
『海外だが。……友達と横川に行ってると聞いていたが、まさか超進化研究所にいるとはな』
「えっと、本来の目的は違ったんだけど、なりゆきで……」
手短に旅程を伝えると、そうかと気迫のない相槌が返される。感情の起伏が少ないのはいつものことだ。
『ナマエは適合率が低いから、シンカリオンとは縁のない環境に置いておこうと思っていたが』
「いや、だからって他のご家族にはそれとなく言っておいたりは?」
『家族は子供ひとりだが』
横川支部指令長の十河が額に手を当てた。父の性格を知っていたが、実質ひとり暮らしさせているとは思わなかったのだろう。
「今すぐに帰ってこい。何も知らされてなかったんだ、彼女も不安だろう」
『こっちも適合率の研究で忙しいんだ。だからまだ帰れない』
「そ、そうですよ。いつものことですから、……大丈夫です」
気まずそうに微笑むナマエに、でもねえ……と十河が問いかける。
「高い適合率の運転士じゃないのに、ここの秘密を知っちゃったっていうのはねえ……」
「絶対誰にも話しません! 信じてくださいっ」
『────ふぅん。今のナマエなら、研究所にいさせても問題ないだろう。広い世界を知らなければならないしな』
新人司令員用の研修マニュアルが保存されているだろうと、父はこちらの剣呑な空気を無視して指示を出す。
それを喜んだのはアユに連絡を終えて部屋に顔を出したシンであった。
「研究所でも一緒なんて嬉しいや」
『それ見ろ。シンカリオンZを造った碓氷の子供もいるんだ、適合率の高低関係なく協力する人材を登用するのに大人も子供もあるか?』
大人ふたりがまだ処遇を決めかねていると、ずっと側で黙っていた白いつなぎの少年が賛成の言葉を放った。
「横川支部はまだ人員が少ないし、俺は整備士もしているから、いつでもシンに指示を出していられるとは限らない。他のスタッフの負担を減らせるなら、賛成します」
『君は例の碓氷の子供か?』
「はい。……新人にも満たない、見習いとしてナマエを所属させてもいいでしょうか」
『それを決めるのは私ではない』
みんなが一斉にナマエに目を向けた。震える下唇を噛んで、口の端を引き結んでから、俯いていた顔を上げた。
「わたし、シンカリオンのことも、研究所のことも、何もわかっていません。でもこのままじゃ話は始まらない……、巻き込まれたからしかたなく……じゃなくて、自分の意思でここにいたい、見識を増やしたいと思いました。
だから、これから、よろしくお願いします!」
ナマエは腰を90度に曲げて深くお辞儀をした。心臓の音が誰かに聞こえるんじゃないかと思うくらいバクバクと動く。
「──顔、上げろ」
アブトに声をかけられて、言われた通りにおそるおそるナマエは頭を上げた。
彼は澄ました顔を崩して、手を差し出した。応えるようにこちらも指先が触れると、ギュッと手を握られた。
「これからよろしくな、ナマエ」
「っ……うん!」
電話越しで雰囲気が明るくなったのを感じて、ナマエの父親は静かに通話を切った。
古い知り合いのせいで集中力が途切れた彼は、手元の冷めたコーヒーを一気に飲み干して、さっきまで連絡を取り合っていたスマホを操作する。
十河や島たち超進化研究所の関係者たちと連絡をとり合う物は、いつでも煩わしく電源を切ってカバンの底に入れているが、家族用の物は万が一に備えて肌身離さず持っていたのだ。
家族の声を久しぶりに聴いて、懐かしさで写真を見返した。
ずっと自然の風景の写真ばかりだったが、ここ数年途中から家族の写真が増えていた。
「もっと世界を知りなさい……」
彼は写真のナマエに語りかけてから、またコーヒーを飲もうと部屋を移動した。
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