02 制服姿で補導されないように人ごみを避けるようにして家に帰ると、母・温子が寝起きでぼー……とタバコをふかしていた。
「ただいま。で、おはよう」
「……コーヒーいれてよ」
ヤカンを火にかけ、下着姿の温子に散らかっていたシャツを羽織らせ、灰皿を近くに置く。
エプロンをして、沸くまでの間に酒瓶をひとつの袋にまとめて、歩けるスペースを作る。
「あんた学校は」
「気分が悪くて早退」
ピーッと鳴らすヤカンの音にようやく覚醒したのか、はっきりした口調で問う。
ペーパードリップでコーヒーをいれ、ほどよい香りが辺りを漂い、それを損なわないように温子の前に出す。
「行く気ないならやめちまいな。学校だってただじゃないんだよ」
「うん」
「あんた、あたしと違って頭はいいんだし、家で自主勉強するのがいいと思うんだけど」
コーヒーを飲むのを尻目にエプロンを脱いで、そのまままた外出した。
温子の伝手で知り合った男性(名前は手下の人と認識している)の店に向かう。小洒落た喫茶店だがニッチなメイド喫茶で、周りには年齢をごまかしてアルバイトを時々している。男性だけしか本当の年齢は知らず、ばらしたらただではすまさないと事前に丁寧に釘を刺しておいたのだ。
シフトは入ってないけど下校時間まで暇つぶしにと歩いていると、いきなり同じ皿屋敷中の男子生徒たちに囲まれた。よくケンカをふっかけてくる桑原一行だ。
名前はふと思いだす。自身が不良少女だと噂されるようになったのは、かつて財布をとられそうになり、面倒で手が出てしまう悪い癖と温子直伝の喧嘩殺法でいくらか上背のある不良をコテンパンにして以来だった。
こんな生活終わらないかなと拳を止めると、桑原は白目をむく一歩手前だった。
急いでるからと捨て去り、また歩きだす。
ポンとボールが当たり、それを追って小さな男の子がやってきた。
車の通りが激しく、本を読み聞かせるように注意して、向かいの歩道に渡って振り返ると、またボールで遊びだしていた。
小さな足で蹴ったボールは運悪く道路の真ん中まで転がり、男の子は拾おうと飛び出した。
危ない! と同じように飛び出し、大音量の音楽を流した車が目の端に見えた。
男の子を突き飛ばして、名前は体に衝撃がはしったのを最後に意識が飛んだ。
そう思ったら目が開いて、眼鏡が傍らに落ち、頭から血を流した自分が客観的に見えた。周りには救急車やパトカーがランプを照らして、にわかに人も集まってきた。
「死んだの? まさか幽霊ってやつ……?」
「ピンポンピンポ──ン。意外とものわかりが早いわね」
櫂を横座りにして飛ぶ着物の少女が明るい声で現れた。
三途の川水先案内人のぼたんと名乗り、あの世の使いにしては親しみやすく見えて真顔になった。
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