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「おっはよー!」
「おはよう、アズサちゃん」

 朝の登校でクラスメイトがごった返す中、アズサが元気よく挨拶すると、女子はほとんど彼女の元に集まった。それもそのはず、アズサはネットで人気の『小学生ユーチューバー』で、話題を欠かすことを知らない人気者だ。

「動画見たよ」
「また再生回数すごい数になってたね」
「ふふん。それほどでも……あるかも」

 注目の的になってもまんざらでもないアズサを中心に女子の輪が広がるが、その塊をハヤトは苦労して避けて自分の席についた。
 朝から一苦労かける少女だと辟易してると、かしましさを両断するような静かな声がした。

「ごめんなさい。そこ、私の席だから。退いてくれる?」

 いつも通り感情の読めない仏頂面の少女がクラスメイトの輪を崩させると、ハヤトの席の近くにある彼女の席に大人しく辿り着いた。
 彼女の名前は苗字ナマエ。頭がよく、スポーツ万能の文武両道の完璧少女なのだが、とある会社の社長令嬢という肩書きと、開かずの踏切みたいに人を誰も寄せ付けない雰囲気でクラスメイトから遠巻きにされている。アズサ曰く──。

「クールビューティーで、そこがいいんじゃない!」

 ──とのこと。
 クラスメイトとの少しの会話は問題なく受け答えでき、成績もいいから先生とも悪い関係ではない。
 ただそれだけで、その誰とも接点のないナマエにハヤトはどう声をかけるか頭を悩ませていた。
 それは数日前のこと。ハヤトは新幹線のようなロボット・シンカリオンに関する研究を行う新幹線超進化研究所という特務機関になりゆきで所属することになってしまった。
 シンカリオンに乗れるのは適合率の高い者だけなのだが、大人ではなく子供の方が高い傾向があり、超進化研究所は急ピッチで彼らを探し出すために、ゲームに見せかけたシミュレーターをアプリゲームやアーケードゲームとして広めている。
 スコアの調整のためにハヤトも手伝っていたが、ついに彼のスコアに近い高い数値を出したアカウントが出現した。その持ち主がナマエだったのだ。
 全国行脚かと思われたが、ハヤトと同じクラスの子で職員たちは安堵していたが、彼は大人びた横顔を見てるだけで話すきっかけさえも思いつかなかった。

「苗字さんは、観光列車の『THE ROYAL EXPRESS』みたいな雰囲気だよね!」

 と話しかけてみようか? 会話が続くかわからないが……。
 いざ! と腰を浮かせると、チャイムが鳴ってしまった。担任も入ってきて、がっかりと横目で次のタイミングは……と見計らっていると、彼女の手元を見てしまった。
 ナマエは朝のホームルームに耳を傾けながら時折机の上に置いた本を見ているが、それが電車の本だったのだ。
 脳内で話しかけるシミュレーションをして、ホームルームが終わってあのっと声をかけようとしたら、彼女は体操着が入った手提げを持って隣のクラスに行ってしまった。しまった、一時間目から体育の授業だった……。
 その後も彼女は休み時間には先生に授業の内容を訊ねたり、手洗いに行っていたりと放課後までタイミングが合わず、放課後の校門でようやく話しかけることに成功した。

「苗字さん、待って!」

 靴も中途半端に履いて、転びそうになりながら手を掴んだ。ナマエはハヤトの必死さに驚きながら、まずは靴をきちんと履くことを提案した。

「何か用? 速杉君」
「そうそう。放課後、時間ある?」
「今日は家庭教師も来ないし……ええ、空いてるわ」
「じゃあ、鉄道博物館に一緒に行かない?」

 ナマエは一瞬考える素振りを見せ、いいでしょうと頷いてみせた。
 ハヤトは素早く父のホクトにメールを送り、出発進行! と歩き出した。

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