1-2 道中はハヤトが鉄道の知識を話しまくり、ナマエは静かに耳を傾けているだけだった。
「ハヤト!」
「お父さん、連れてきたよ!」
鉄道博物館の入り口でホクトは待っていて、ナマエは服を整えて挨拶した。
「初めまして、苗字ナマエです。速杉君とはクラスメイトで、仲良くしていただいてます」
「ああ、これは。ご丁寧にどうも。ハヤトの父の速杉ホクトです」
お互い頭を下げていたが、ハヤトに急かされて本題に入ることとした。
鉄道の乗車カードよりも少し厚みのある『Shinca』をナマエに貸し、職員用の扉に翳して奥に進む。エレベーターで地下に行き、無機質な廊下を歩いていると、若い女性が速杉指導長と駆け寄ってきた。
「出迎えなら、わたしがしましたのに……」
「ごめん、三原君。ちょっと気分転換のつもりだったんだ」
ホクトの言い訳に三原と呼ばれた女性は苦笑いし、ナマエに向き合った。
「さてと。新幹線超進化研究所・大宮支部へようこそ! 司令員の三原フタバです」
「初めまして、苗字ナマエです」
「君をハヤトに連れてきてもらったのは、深い理由があって──」
「わかっています」
話を遮って、ナマエはカバンからスマホを取り出し、ゲームアプリ版のシンカリオン・シムを起動させた。
「こんなに鉄道に関わる場所にいるんですから、当然このゲームアプリのことについてですよね。このゲームに携わっているという父に勧められて遊んでみたんですが……何かあるんでしょうか?」
「……ん? ゲームに携わっている苗字さん……っていうことは──」
スマホの画面を弄ってナマエは父の写真が映った会社のホームページを見せる。
ハヤト、ホクト、三原も覗きこんで、大人ふたりがあの苗字さん! と声を上げた。
「苗字さんと言えば、超進化研究所の外部協力者じゃないですか!」
「そうか、娘さんがいるとは聞いたことがあったが、君だったとは……」
超進化研究所ではちょっとした有名人のようで、ナマエは家では母に甘えたがる父を少し見直そうと心に決めた。
「そうとなれば話は早い。君には……シンカリオンの運転士として、現在最重要候補として上がっているんだ」
「……すみません。シンカリオン? とは、何でしょうか?」
関係者だとしても父から研究所のことは聞いたことがなく戸惑っていると、ハヤトがこっちにあるよと招いた。
Shincaで扉が開いて、その部屋から眩しい光が溢れ、ナマエは何回も瞬かせて目を慣らした。
目の前には緑色、赤色、青色の新幹線が厳かに留置されていた。それぞれ北海道・東北新幹線、秋田新幹線、北陸新幹線などで使用されているはずだが、鉄道博物館の地下に置いてある意味がわからなかった。
「これがシンカリオンだよ」
ハヤトは緑色の新幹線のロボット、シンカリオン・E5はやぶさの運転士だと胸を張る。
超進化研究所は表向きは新幹線に関する最先端技術の研究を行う組織なのだが、実はシンカリオンの開発と運用、巨大怪物体の研究をしているとわかりやすく説明されるが、ナマエが理解するにはとても時間がかかった。
『その子が運転士候補でございまーすか?』
どこからかふわふわとやってきた人の頭サイズのロボットにナマエは静かに驚いた。はやぶさと同じような色合いに、丸い体と手足のそれは高性能AIを搭載した車掌型マスコットロボット・シャショットで、ハヤトの相棒らしい。
ホクトの提案でシンカリオンに乗るために必要な適合率を測定するため、恐る恐るシャショットに触れる。数字が素早く上昇を刻み、ナマエの適合率は90%を表示した。
これは好機だと喜ばれ、ホクトは指令室と繋いでシンカリオンの試運転を始めるよう指示した。
E6こまちに乗り、運転席に着くと、スピーカーから男性の声が聞こえた。その声に従いマスコン型のシンカギアを左手に装着し、Shincaを翳し、後はレバーを引くだけと右手で動かすも、まったく動かなかった。
『適合率が足りません』
数度やり直しても操作できず、シンカギアからのアナウンスが響き、最終的にはE6自体が拒むようにコクピットが光を失ってしまった。
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