Love bite!@

「ほんま間抜けな奴やなお前は!」
「はあ!?なんで侑にそんな事言われなくちゃならないのよ!」
「間抜けだから間抜けって言っただけやこのアホんだら!」
「うっさい馬鹿侑!!」

昔からこうだ。幼馴染の俺とななしは、顔を合わせれば喧嘩ばかり。勝ち気な彼女は、俺の言葉にいちいち突っかかってきたり、俺のやる事成す事に文句を言ってきたり、それはもう喧しい女で。泣いて泣かされて、よく親にも女の子をイジメるななんて怒られたりして。でも俺にとってアイツは女というよりも、最早ライバルの様な、そんな存在であった。恋愛小説や恋愛漫画によくあるような、幼馴染同士で初恋〜とか、甘酸っぱい恋愛〜、とか、絶対有り得へんわ、なんて鼻で笑っていたのに。なのに。

「好きや、ななし」
「わ、私も、好き……」

気が付いたら俺たちは、周りにもバレバレな程分かりやすくお互いに惹かれ合っていて。この想いを自覚して、こうして告白して恋人という関係になるまでに、2年という年月がかかっていた。その間も、たくさん喧嘩をしたりすれ違いをしたり、たまに恋敵が現れたりして焦ったりもしたけれど、無事にこういう結果に落ち着いて、俺もななしも、幸せいっぱいだった。これからは、甘い恋人生活を、一緒に……、



「こら馬鹿侑!!アンタまた私のノート勝手に持って行ったでしょ!!」
「はあ?ノートくらいええやろ、宿題やんの忘れたんや。見させてもろたで」
「一言何か言ってから持って行きなさいよ!それじゃあ泥棒と一緒だよ!?」

恋人になった今でも、俺たちのスタイルは変わらなかった。口喧嘩ばかりで、恋人らしい事なんて下校中に手を繋ぐくらい。たまにふと考えてしまう。俺たちは本当に付き合っているのだろうか、と。言い合う俺たちを見て、既に公認カップルになっている俺たちは『また始まったよ夫婦喧嘩』なんてからかわれたりもするが、俺からしたらそんな認識も全くない。このままではあかん。これじゃあ俺の思い描いていたななしとの恋人生活が全て崩壊する。俺だって健全な高校生男子。恋人になったらあんなことやこんなことも、なんて考えては日々想像を膨らませていたのだ。それが一つも実現できていないなんて、宮侑の名前が廃れる。

「あかん!!ここままじゃあかんのや!!」
「…なんやいきなり大きな声出して」
「サム!!俺は決めたで!!」

呆れるようにこちらに顔を向ける治に対し、俺は部屋の壁に掛けられたカレンダーを指さした。春休みに行われる、男子バレー部の合宿練習。合宿所に泊まりながら、一日中バレーの練習を行う、バレー部恒例の行事が迫っている。俺の幼馴染兼恋人兼バレー部マネージャーであるななしも当然この合宿に参加する。それはつまり、1日中ずっと一緒に居られるという事。このチャンスを逃さずしていつ実行に移すというのか。この合宿こそ、俺の野望を叶えるのにぴったりドンピシャな行事なんや。

「この合宿中に!俺は!ななしとチューしたる!」
「………そうか、頑張ってな、おやすみ」
「おいサム!俺の決意はまだこれからや!ちゃんと最後まで聞いてけや!」

そそくさと部屋に戻っていく治の背中に怒鳴りながらも、俺は再びカレンダーに目を移した。赤いペンで『合宿』と書かれた一週間を睨む。俺は絶対にやってやる。バレーの選手としても、一人の男としても、この合宿で一回り二回り成長して帰ってくる。

脳内に浮かび上がる、ななしのキス顔。目を閉じて、ぷっくりつやつやの唇を閉じて、俺に顔を差し出すななしの姿に、みるみるやる気が沸きあがってくる。恋人なんだ、キスくらいしたって、別に変な事ではない。それに、きっとななしも彼女ならば、俺と同じ気持ちでいてくれる筈。こんなに付き合っていて、まだキスの一つもしていないなんて、他の奴らにバレたらなんて馬鹿にされるかもわからない。


(覚悟せえよ、ななし!!!)



部屋で一人闘志を燃やしている一方で、ベッドに寝転びながら友達と電話をしていたななしは、ぞわりと背筋を震わせていた。

「な、なんか寒気が…」
『風邪〜?気を付けなよ、ななし合宿控えてるんやろ?』
「うん…そうだね…」


侑のキスチャレンジが、幕を開けようとしていた。