全く、この暁は本当に犯罪者集団なのだろうかとつくづく思う。いや、まあ、他人から見ればそうなのだろうけど私達内部の人間から見ればそりゃあもう和気あいあい……とまではいかないか。
「トビてめぇ! それはオイラのばくだんだろうが!!」
「やだなぁ、早い者勝ちッスよセンパーイ」
昼食のおでん。大鍋からつつき合うそれは大家族さながら何とも微笑ましい。でも、トビくんがデイダラ先輩のお皿からばくだんをヒョイと盗んだ瞬間にたちまち戦場と化すのだから本当に、もう。
ああほら、食事中に粘土なんて捏ね始めるから小南さんの纏う空気が冷えて来たじゃないかコワイ。
「リーダー! 止めてくださ……リーダー?」
小南さんを怒らせたら色々とヤバいから、リーダーに止めて貰おうと振り向くと、既にその姿はなく、代わりにゼツさんがちょこんと鎮座していた。
「リーダーは?!」
「逃ゲタ」
「ねえ名無し! おでん食べていいって!」
「熱イ、ヤメロォ!」
熱々のおでんをこれでもかと口に頬張るから、ああもう黒さんが悶絶しているじゃないか。なんて事を考えるよりも、リーダーめ、逃げやがった……。
こうなってしまってはもはや私が止めるしか術がないというのもまた事実で。
「デイダラせーんぱい!」
「うお?! 何だよ名無し、危ねーからどいてろ、うん」
「ねえ先輩、今日の任務連れてって下さい」
「ハアァ?! 連れてかねーよ!」
「何でですか?! 私がカワイイからですか?!」
「おま、寝言は寝て言えっつーの!」
「ア痛ァッ?!」
パチーンと小気味良い音と共に、デイダラ先輩の指が私のおでこを弾いて。しゃがみ込み、しゅうしゅうと音を煙を立てるおでこを押さえながら、涙目でデイダラ先輩を見上げる。
くそう、チャクラ込めやがった……許さぬ……。
「デイダラ先輩……私にそんな真似をしてこのばくだんがどうなってもいいのかッ?!」
「お、お前……それは……!」
「コイツが惜しければ私を任務に連れて行け!」
「クソ……仕方ねぇ、連れてってやるよ……うん」
「うふふ、わかればいいんですよお」
ガクリと崩れ落ちるデイダラ先輩の肩に手を置いて、うんうんと頷いて見せる。まあ、結局のところ修羅場を回避すると言うよりは、私がデイダラ先輩の任務について行きたかっただけってのが本音なんだけど。
「アハハ! 何スかこの茶番!」
こちらを指さしゲラゲラと笑い転げるトビくんをひと睨みすると、途端に音の鳴らない口笛を吹き始めるから、なんて下手くそな誤魔化し方だと苦笑する。
そもそもあんたがデイダラ先輩のばくだんを奪おうとするからいけないんじゃないかと思うけど、結果的に任務について行ける事になったのだから感謝してやろう、うん。
「じゃあ先輩、レッツゴー!」
何故だか納得のいかない風なデイダラ先輩をずるずると引きずって、任務へと出発する。
本日の任務は至って簡単、とある組織への密書を運ぶと言うだけのもの。その為本来ならばツーマンセルのところ、サソリ先輩は違う任務へと駆り出されたのでデイダラ先輩1人で向かうはずだった。まあ、平たく言えばそこへ私がまんまと入り込んだわけだ、ラッキー。
「……ったくよぉ、なんでお前と一緒に、」
「なーに言ってんですか嬉しいクセに!」
「べ、別に嬉しくなんかねーよ!」
「またまたあ」
「だいたい今日に限ってついてくるとか……」
「私はいつもデイダラ先輩と一緒にいたいです!」
「なっ……、お前、それ、」
「あ、デイダラ先輩もっと高くお願いします」
デイダラ先輩のC2に乗って優雅な空中散歩。
遥か下に見える地面や、とんでもなく小さく見える木々や家屋の数々に心が弾む。時折頬を掠める爽やかな風が心地よくて、ついついはしゃいでしまうのも無理はない。
「名無し……お前まさかC2が目当てで……?!」
「や、」
「やだなぁ、そんな事あるワケないじゃないッスかあ」
「トビィ! なんっでテメェがここにいいやがんだよ……喝!!」
そんなことない、と言おうとした私の言葉を遮ったのは、いつの間にか背後に座り込んでいたトビくんで。私が突っ込むより早くデイダラ先輩のC1がトビくんの顔面で起爆していた。なんて素早い。
「ちょっと先輩、ボクを置いてくなんてヒドい!」
「その気色悪ぃ真似ヤメロってんだよ!」
ギリィ……と手ぬぐいを噛むトビくんに、デイダラ先輩の血管がピクリと浮いた。そもそもどうやってあのまま手ぬぐいを噛んでいるのだろうか。
いや、今はそれどころではない。
「ちょっと……トビくん……」
「名無しちゃんなんスか? そんな怖い顔しちゃって!」
ゆらりとC2の背に立ち上がりトビくんの前に立ちはだかる。そして、印をゆっくりと組んですう、と深呼吸。
デイダラ先輩も慌ててるけど知るもんか!
「えっ、ちょ、待っ……アハハ冗談キツイッスよ!」
「おいコラ待てそれは……?!」
「……火遁、」
「ヤ、ヤメロォー!」
「豪火球の術!!」
ゴォ、と放たれた火球と共に、トビくんは真っ逆さまに地面へと向かい落ちていく。まあ、死ぬことはないだろう。
「……そういやお前もうちはの血筋だったな、うん……」
「たまに失敗して自爆もどきになっちゃうんですけどね」
「そんなのココでやるんじゃねーよ」
ぎゅうっと両頬を抓りながら、デイダラ先輩は唾を飛ばす勢いで怒鳴りつける。だって、仕方ないじゃないか。
「らって、」
「あ?」
何か言いたげな私を察してか、抓っていた手をそっと外す。ほうら、やっぱりデイダラ先輩は優しいんだ。
せっかく先輩とデートなのに℃巨を落としながらぽつりとそう呟けば、デイダラ先輩の薄く笑う声が聞こえて。
「だから任務だって言ってんだろーが!!」
アジトで食らったそれよりも激しい衝撃が私のおでこを襲う。くそ、騙されなかったかデイダラ先輩のクセに……なんて心の中で悪態をついていれば、それに気付いたのか気付いてないのか、再度先輩の腕が伸びてきた。
ヤバいまた弾かれる?! なんて心配は。
「……今は無理だけどよ、この任務が終わったらどっか連れてってやるよ、うん」
「デ、デイタラせんぱ……」
ふわりと。
優しく私の頭を撫でたデイダラ先輩が、いつもよりも穏やかな表情でいうから、瞬く間に私の頬には熱が灯る。
もう、ずるいってば、いきなりそんな態度。
「な、なんか死亡フラグみたいですね!!」
「お前なあ!!」
「ぎゃ! 待っ、落ちる……!」
恥ずかしさを誤魔化すようにからかえば、デイダラ先輩が掴みかかって来るもんだから、ぐらりと傾く私の身体。トビくんじゃないんだから、私はこの高さから落ちたら間違いなく死ぬ。ああ、短い人生だった。
固く目を瞑り、来るべき墜落に備えようとするけれど、いつまで経っても地面にぶつかるような衝撃も、それどころか浮遊感すら感じられなくて、恐る恐る目を開ける。
「……ったくよぉ、」
「あ、あの……」
「お前にゃまだ死なれちゃ困るんだよ」
「え?」
「なあ、名無し。ずぅっとオイラといるんだろ?」
思いのほか逞しい腕に支えられた私の身体。顔はデイダラ先輩の胸板に押し付けられていて。
耳元で響く低くて、でも甘ったるい低音にぞくりと身体が震え出す。
「で、でいだ……」
「ちっと黙っててくれよな、うん……」
真っ赤なデイダラ先輩の耳。
どきどきとうるさいデイダラ先輩の鼓動。
もう落ちそうになんてなっていないのに、ぎゅっと、ぎゅうっと抱き締められたまま、しばらく空中散歩を楽しんで。
ねえ、先輩、期待してもいいんですかね、私。