女の勘とヤキモチ@

「新入りだぁ?」

怪訝な声を上げたのは、デイダラだった。いつもの場所でいつもの様に集まっていた暁の面々は、リーダーであるペインの言葉に驚きを隠せなかった。現在暁は、既に11人もの人員を抱えている。てっきりこの面子で活動をしていくのかと思いきや、新しいメンバーを加える事になったと言われたのだ。あまり歓迎ムードでは無い様子の皆を前に、ペインは己の後ろに声をかけた。

「……出て来い」

促されるまま、ペインの背後から現れた人物。その人の姿に、私はハッと息を呑む。いや、私だけではない。恐らく他の人たちも驚いていた筈だ。何故なら、そこに立っていたのは、とても強そうには見えない、美しくて若い女性だったからである。人を殺す以前に、虫すら殺したことがあるのかと問いたい程に、彼女はこの場に似合わない綺麗な笑顔を浮かべていた。身に纏う暁の外套から覗く手は、白くて綺麗で。とにかく何においても美しいという言葉以外思い浮かばない。

「暁の皆様、初めまして。シラユキと申します…よろしくお願いします」

深々と頭を下げるシラユキに、私たちはただ無言で立ち尽くしていた。殺伐とした荒野に咲く、一輪の花のように、彼女が輝いて見える。何だか同じ女として、私はどうなんだろう…とすら思ってしまった。何となく、みんなも鼻の下を伸ばしているような…、なんていうのは、恐らく私がそう思い込んでいるから見えているだけで、実際のところはどうなのか分からない。だが、こんなに美しい人が組織に入ってくれるというのなら、きっと嫌な気持ちはしない筈。押し黙る面々の中で、鬼鮫が代表として口を開く。

「リーダー、彼女は一体。とても戦えそうには見えないですが」
「シラユキは、ななしと同じく傷を癒す力を持っている。強力な医療忍者だ」
「え…」

声を漏らしたのは私だ。医療忍術を使える…、そう驚く私を見て、シラユキはにっこり微笑む。何だろう、この胸のざわつきは。

「今までは治療できるのがななししかいなかったから、貴女に負担が掛かっていたけれど、これからは分担できる。貴女の体への負担は減る筈よ」

ペインの隣に立っていた小南はそう言った。治療できる人が二人になれば、単純にその負担は半分になる。加えて私のこの力は、体に噛みつかれないと使えない。医療忍者よりも体に掛かる負担はかなり大きかった。もしかしてリーダーは、私の体を案じてこの女性を引っ張ってきてくれたのだろうか。しかし私は何故か心が晴れなかった。何だろう、このもやもやとした気持ちは。黙ったまま俯いている私に、小南は小さく首を傾げていた。

「今度の任務からは、治療が必要なときはななしとシラユキを同行させる」
「はい、リーダー」
「ななし、シラユキが慣れるまではしばらく行動を共にしてやれ。任務に慣れているお前なら、色々と教えてやれるだろう」
「…分かりました」

再び深々と頭を下げたシラユキを、私はざわつく胸を押さえて見つめていた。それが、私たち暁と、シラユキという女性の初めての出会いだったのだ。

シラユキは、とても甲斐甲斐しかった。医療忍術は使えるものの、戦闘面においては全くの丸腰である所も私と一緒で、任務に同行する際はいつもみんなに対して「申し訳ない」という気持ちを抱いていた。その分を返すかのように、彼女は暁での家事殆どを、全て請け負うようになった。みんなと打ち解けるのもそう時間は掛からず、最初こそ警戒していたみんなも、今ではすっかり砕けた会話をするようになっている。そうやってどんどん暁に馴染んでいく彼女を見ていると、ずっと抱えていた胸のもやもやは益々大きくなる一方だった。私自身、これが一体何なのか分からないまま、その光景を眺めているしかなかった。

「何してんだこんな所で、うん」
「…デイダラ、サソリ…」
「相変わらず間抜けな顔してんなお前」

部屋の外で、シラユキと彼女を取り囲むみんなを眺めていたら、突然背後にデイダラとサソリのコンビが現れる。タイミング良く現れた彼らは、唯一シラユキとあまり深く関わろうとしない人物であった。それが何故なのか、ずっと気になっていた私は、その疑問を直接本人たちにぶつけた。

「ねえ、二人とも」
「うん?」
「シラユキを任務に同行させないのって、どうして?」
「…ああ、」

彼らは、シラユキが暁に入ってからまだ一度も彼女を任務に同行させた事が無かった。一方で、私はその後も何度も二人に指名され、今まで通り任務に同行している。それは一体何故なのか。デイダラとサソリは、私のその質問に対してあっけらかんとした様子で言った。

「俺らの担当はお前だろ、うん」
「え…」
「今さら新しい奴連れてっても何だか落ち着かねぇっていうか…。サソリの旦那も、お前でいいって言ってるしな、うん」
「フン。貧弱なお前でも、一応場数は踏んでるんだ。新人よりは役に立つだろう」
「二人とも…」

ストン、と心に何かが落ちるような感覚。二人は、敢えて私を選んで任務に連れてってくれてたんだ。それが何だか少しだけ嬉しくて、私はデイダラとサソリの腕に勢いよく抱き付いた。「おい、引っ付くな歩き辛いだろうが」と文句を言われたが、今は関係ない。少しだけ、心のもやもやが晴れたような気がする。部屋の外で彼らとじゃれ合っている光景を、シラユキが静かに見つめていた事にも気づかずに。

それから、シラユキがデイダラ達に直談判をしてきたのは、数日後の事。デイダラとサソリにいつもの金稼ぎの任務が舞い込んできた時であった。毎度のように私を連れていこうとするデイダラとサソリの前に、シラユキが現れたのである。

「お願いします、私も連れてってください」

二人の前に頭を下げるシラユキ。一体何を考えているんだろう、と後ろから眺めていた私の胸は、再び大きくざわついていく。連れてってくれるまでここを退かない、とまで言い張るシラユキに折れたのは二人の方で、今回の任務は私とデイダラとサソリ、そしてシラユキの四人で向かう事となったのだ。

「よろしくお願いしますね、ななしさん」
「う、うん…」

作り笑いを浮かべる私とは対照的に、シラユキはとても綺麗な笑顔を浮かべている。彼女を怪しんでいるのは私だけではないようで、後ろをついてくるシラユキに対して、鋭い視線を配っていたのはデイダラとサソリもだった。果たしてこの任務が無事に終わるのか、不穏な空気を纏ったまま、私たちは今度こそ出発したのだ。


ーーーー・・・・


「まさかこんなに手こずるとはな」
「ちっ…ウザったい奴らだ、うん」

デイダラとサソリの前に対峙するのは、木の葉のマークの額宛を付けた忍びたちだった。賞金首を呆気なく討伐した私たちは、換金所に向かう途中、彼らと出くわしてしまったのだ。尾獣を巡って何度も交戦したことがある彼らは、暁である私たちを決して見逃してはくれない。やむを得ずこうして交戦しているのだが、思った以上に手練れだった相手に、二人は苦戦を強いられていた。

その内、相手の風遁によって切り傷を負ったデイダラがその場に膝をついた。サソリのフォローによって何とかその場を凌いではいるが、急ぎ治療しなければ、今のデイダラは敵を前にして隙だらけである。私は何を考えるよりも先に体が動いていた。後ろに下がってろ、と言われて、シラユキと共に離れた場所から戦いの行く末を見守っていたが、早く彼を治してあげなければ。そう飛び出した矢先、

「デイダラさん!!!」

私よりも先にデイダラの元に辿りついたのが、シラユキだった。気づけばシラユキも同じように戦場に飛び出していて、負傷したデイダラに寄り添っている。デイダラの体を支える彼女を後ろから見つめて、またズキリと胸を押さえた。彼女が来てから、私…なんか変だ。ずっと、心がざわついていて落ち着かない。ただ茫然とその場に立ち竦む私を前に、シラユキはデイダラをそっと抱きしめたのである。

「お前…、」
「今治しますから、じっとしていて…」

シラユキの体が緑色の光に包まれ、その光が、抱きしめているデイダラをも包んでいく。そしてみるみる内に、デイダラが負っていたその傷を治していく。今まで何度もシラユキと共に任務に同行したことがあったが、彼女の医療忍術は強力だった。それに、わざわざ噛む必要がないので、手間も掛からないし術者自身の負担も少ない。手軽でスピーディーに治療できるシラユキは、噛まなければ使えない私の力と違って役に立つ。そう自分で考えてまた苦しくなっていく。ぎゅっと握りしめた胸には皺が刻まれている。

「…助かった、うん」
「いえ…お役に立ててよかった」

完全に復活したデイダラは、向かってきた木の葉の忍びの攻撃を、シラユキを抱きかかえながら避けた。それを見ていたサソリは、そんなデイダラに対して「逃げるぞ」と一言促し、ぼーっと立ったままの私の体にチャクラ糸を巻き付ける。ぐいと引っ張られた体は、サソリにダイブするように飛んで抱きとめられた。

「何をぼーっとしている。死にたいのか」
「サソリ…。ご、ごめん…」

デイダラの分身が、起爆粘土を食べてどんどん膨らんでいく。この爆発に乗じてこの場から退散する目論見だ。やがて、その分身が大爆発を起こして爆風を巻き上げた瞬間に、私たちは無事そこから逃げ出したのである。


ーーーー・・・・


それから私たちは、無事賞金首の換金も終えて、デイダラの作った粘土の鳥に乗ってアジトに向かって空を飛んでいた。いつもならデイダラの後ろに乗っている私だが、今日はサソリの後ろに乗っている。一方、デイダラの方にはシラユキが乗っていた。この鳥に乗る際、当然デイダラは私を後ろに乗せようとしたが、それを断ってサソリと乗ると言うと、デイダラはたちまち不機嫌になっていったのだった。でも…、何だか今日は、デイダラの後ろには乗りたくない。ぎゅう、と前に乗るサソリの背中にしがみつく。彼は鳥の上で器用にヒルコの手入れをしていた。

「今日はあの馬鹿の引っ付き虫をしなくていいのか」
「引っ付き虫って…。いい、今日はサソリでいい」
「俺でいい、ってなんだ。俺で、って」

不服そうなサソリの顔がこちらを向く。サソリの体は傀儡だから、癒しの力を必要としない。今はそんな彼といるのが心地よかった。サソリも私の心境を知ってか知らずか、傍に置くことを拒まないでいてくれる。そんなサソリに寄り添いながら、先程の光景を頭に思い浮かべてまた苦しくなった。傷付くデイダラを、抱きしめるシラユキ。何も変な事はしてないのに…、シラユキはただ自分の仕事を全うしただけなのに…。私はどうしてそれがこんなにも嫌だと感じているのだろう。こんなにも焦っているのだろう。

「ねえ、サソリ」
「なんだよ」
「私って…、」

必要?と言いかけて、その言葉を飲み込んだ。こんな事を聞いたら、きっとサソリはめんどくさいと思うだろう。名前を呼んだきり何も言わなくなった私に、サソリは苛立ちながら「おい、なんだ」と急かしてきた。そういえば彼は待つのも待たせるのも嫌いなんだった。ううんなんでもない、と儚く笑う私を見て、サソリはただ無言で前を向く。深く追求してこないところも彼らしい。それから私たちは無事アジトに到着し、任務からの帰還を果たしたのだ。


それから私が暁から姿を消したのは、1週間後のことである。