Obsession



咲き誇っていた桜の花が散り始め緑の葉が付き始めた頃、私は張り出されたクラス表を見つめていた。


春休みが明け四月になり、今日から新学期の始まりだった。二年生になったからといって自分自身に特に変わったことはなく、いつもと同じように朝の準備を済ませる。学期始まりは指定制服の着用が義務なため、いつものセーターはクローゼットにかけたままにし、仕方なくきちんと制服を着て登校した。


昇降口の前には人だかりができており、掲示板に張り出されたクラス表を見て喜ぶ者もいれば残念がっている者もいる。人ごみを押しのけ、二年生のクラス表の前に躍り出る。私はその中から早々と自分の名前を探し出し、ある人物の名前も探していく。
彼の名前はア行のためすぐに見つかった。私はそれに心底安堵し、足早に教室へと向かう。
二年生になって教室の場所が三階から二階になったため、朝から一階分上らなくて良くなったのはとても楽だと心の中で独り言ちた。

自分の教室に着き扉を開けると、見知った顔とあまり知らない顔がそこにはいた。何人かの友人が「おはよう」と朝の挨拶をかけてくる。私はそれに返事をし、「同じクラスになれてよかった」と喜びを分かち合いながらその場を離れ彼の席へと向かう。

「おはよう、泉田くん」
「みょうじさん、おはよう」

この三か月で驚くほど丸く太った彼は笑顔で私に声をかけた。春休みは一ヶ月もなかったため会っていない期間は短かったが、二年生になった彼は一年生のときと比べて少し凛々しくなったように見えるのは気のせいだろうか。

「同じクラスになれてよかった! 離れたらどうしようって心配で昨日は全然寝れなかったんだよ」
「そう言ってもらえるのは嬉しいな」

そう言って嬉しそうに笑みを浮かべる泉田くんの頬がとても柔らかそうでつい指でつつくと、むにむにと気持ちのいい弾力が返ってきた。楽しくなって何度かつついていると、彼は「やめないか」とそっと私の手を掴み制したので仕方がないと私はつつくのをやめた。

「泉田くん、以前にも増して柔らかくなったね。ずっと触ってられるかも」
「そうやって揶揄っていられるのも今だけだよ。これから夏に向けて絞っていくからね」
「揶揄ってるつもりはないけど。こんなに柔らかくて気持ちいのにもったいない…」
「なんで残念そうにするんだ」

「まったく…」と呆れたように、だが優しく笑う彼に一瞬見惚れる。
教室に人が増えざわつきが増し、そろそろ自分の席に行かないと、と私はその場を離れ黒板に張り出された席順を見る。すると驚いたことに私の席は泉田くんの左隣の席だった。
すぐに彼の席へ駆け寄ると、彼はあまり見ることのない悪い顔でこちらを見ていた。

「ねぇ、私の席泉田くんの隣だったんだけど! ヤバくない?」
「そうだね」
「知ってたの?」
「もちろん。自分の席を確認したときに目に入ったからね」

したり顔でそう言う泉田くんに私は眉を顰める。

「もう、教えてよ」
「ごめん。でも席を知ったらみょうじさんがどんな顔をするか楽しみでね」

楽しそうに小さく笑う彼に毒気を抜かれ、まぁいいかと私もつられて笑みが漏れる。
自分の席に荷物を置き、腰を下ろす。一年生のときは彼の後姿を眺めていたが、今日からは彼の横顔を眺めることができるのだ。こんなに素敵な席はほかにないだろう、と隣に座る泉田くんを眺めながら私はそう思った。

「なんか、いきなりいいこと尽くしって感じ」
「そうだね」
「今年はめっちゃいい一年になりそうかも!」

「今年もよろしくね」と泉田くんに声をかけると、彼もまた「こちらこそ」と返事を返してくれる。

少しの間彼と話をしていると、今年のクラス担任が「静かに」と声をあげながら教室に入ってきたため、私たちは会話をやめ前に向き直る。先生の諸々の話を聞きながら、私はこれからきっと起こるであろう楽しいことを考え胸を躍らせた。





*前次#


もくじ