「ももは、10年間同じ人が好きだったの。すっごーく、一途な子だよ!」

そう言うのは、あの人と同じ色の髪を持っている、瑠璃だ。私が瑠璃とずっと仲よくしているのは、どこかであの人をまだ諦められていないのかもしれないな、と思う。とても失礼なことをしているような気がして、後ろめたく感じるときがある。瑠璃は、どうしてこんな私となかよくしてくれているのかな。

「へえ。10年間ももちゃんのハートを射止め続けてた人って、どんな人なの」
「私の兄さんだよ。幸村精市」
「幸村精市って、あの?神の子って呼ばれてるテニスプレイヤーの?」
「そうそう」
「へえ、なんかすごそうな話。ももちゃんさえよければ、その話もっと聞きたいな。いいかな?」

瑠璃と楽しそうに談笑していた高橋くんが、私に笑いかける。なんとなく、あの人に似てる微笑みだと思ったから、気づけば私は頷いていた。もう終わった話だから、と自分に言い聞かせるように呟いた。
大して面白い話でもないけどね、と彼に合わせるように笑い、話し出す。ずっと、誰かに話したかったのかもしれない。話すことで、あの人への想いを忘れられるかもしれない、と。そう思っている時点で、私はまだあの人への想いを引きずっていることがわかる。
いつになったら忘れられるのかな、ってずっと思ってる。あの人と交わした言葉は全部特別で、宝物で、忘れられる日なんて来ない気もする。忘れたがってるふりをして、本当は全部覚えておきたい。諦めたふりをして、今もまだあの人の隣を狙ってる。呪縛のようだ。長い間あの人だけを見ていたから、他の人にこんな想いを抱けるのかわからない。

「いつから、幸村さんのこと好きだったの?」

彼の遠慮がちな質問に、いつからだったかな、と首を傾げる。そもそも、どうして好きになったのか。どんなきっかけで好きになったんだっけ。

「……小学生のころには、自覚してた、かな」

道を歩く、ランドセルを背負った人たちが羨ましかったことを覚えている。私とあの人は、5つも歳が離れているから、同じ小学校に通うのはたった1年間しかなかった。私がやっと中学生になったころ、あの人はもう高校を卒業しようとしていた。
いつまでも、追いつけないんだなあ、って泣いたこともある。どんなに走ったって、あの人は待ってくれないし、私は一生追いつけないままなんだって。もう、この気持ちが恋なのかなんなのかも、わからなくなるほどだった。距離は縮まることなく、常に一定の距離を保つだけだった。今思えば、当然だと思う。妹の友だちを恋愛対象として見ろなんて、難しい話。

話したいと思った。瑠璃でさえ、全貌は知らないこの話を。きっと恋愛関係にはなれないだろう、この人に。向けられた好意に気づかないふりをして、踏み台にしようとした。




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