ある日、珍しいことに瑠璃が学校を休んだ。お家の用事、とだけ先生は言って、それ以上のことはもちろん言わなかった。私は担任の先生に聞くより前に家に連絡が来ていたから知っていた。なんで瑠璃ちゃん休みなの?と訊くとお母さんは少し困った顔をして、お家の用事、と言った。その困ったような顔が気になったけれど、お母さんはそれ以上のことを教えてくれなかった。また教えるから、と言われて私はやっと引き下がった。

「栗山さん、プリントを幸村さんのところに届けてくれる?」
「はーい」

先生に言われて、その日のプリントを受けとる。明日は来てくれるかな、なんて呑気に考えていた。やっぱり瑠璃のいない学校はいつもよりも面白くなくて、お母さんや先生の言う「お家の事情」がそんなに深刻なものだとは考えていなかった。


とても寒い日のことだった。精市くんが入院した、とお母さんから聞いたもののあまりにも唐突すぎて、理解が追いつかなかった。精市くんが入院するなんて思ってもいなくて、わけがわからなくて、感情の整理がおいつかなかった私は思わず泣いてしまったのだった。
そんな風に落ち込む私を見かねて、瑠璃のお母さんは私を精市くんのお見舞いに連れていってくれた。どうしても精市くんに会いたいと思っていた私にはとても都合のいい話で、少し緊張しながらも瑠璃のお母さんについていった。病気とは無縁の生活を送っていた私には病院なんて場所はもの珍しくて、きょろきょろとあたりを見回してしまう。どこか冷たい雰囲気のある病院に、私はどうしようもなく不安になった。誰よりも輝いている精市くんが、こんな場所にいるなんて。まだ信じきれていない私は、どこか覚束ない足どりで精市くんの病室に向かう。

幸村精市と書かれたネームプレートを見てもまだ、この中に精市くんがいるとは思えなかった。扉を開けて白いベッドに佇む彼を見てやっと私は、ここが精市くんの病室で、精市くんが入院しているということを認識することができた。私たちに気づいた精市くんはいつも通りに思える微笑みを向けてくれた。私や瑠璃に心配をかけさせないためだったのかもしれない。そのときは特に弱った様子もなくて、すぐに退院できるのかなと楽観的に考えてしまうほどだった。

「ももちゃんも来てくれたんだね、ありがとう」
「だって、精市くんが入院したって聞いたから。大丈夫?」
「大丈夫だよ、心配かけてごめんね」

精市くんがあまりにもいつも通りだったから、私は精市くんの言葉を信じてしまった。精市くんは私に本当のことは話してくれなかった。歳が離れていて、しかも妹の友だちという立場だから、何でも話し合える関係になれるとは思っていなかったけれど、それでも寂しかった。

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