また、結んで
ほどけた糸の続編
今日からテスト1週間前に入るから、部活はミーティングだけで終わった。最寄りの駅で降りたとき、このまま家に真っ直ぐ帰る気分じゃないな、と思い家への方向とは逆の方へ足を進めた。
どこに行こうか、と考えたときにはもう、行き先は決まっていた。5分もすると、目的の場所についた。あのころは、もっと遠くに感じていたのに、と不思議に思う。俺が、大きくなったから、か。
あのころと変わらずに、あたりに咲き誇るシロツメクサ。懐かしい記憶が蘇る。今日は、思い出してばかりだ、と笑う。花冠を作ってみようか、どれだけ綺麗に作れるか、ゆりが喜んでくれるように。
中学生の男子が、1人で花冠を作っている様子は、はたから見れば変わったものだっただろう。しかし、ここにはほとんど人も来ないし、周りの目などどうでもいいと思えた。
ひたすらシロツメクサを編み込んで、輪っかにしていく。地道な作業だった。できあがったときには、思わず空に掲げてしまったくらいだ。綺麗にできた、きっとゆりが読んでいた絵本の花冠みたいに。
「……会いたい、なあ」
無意識に呟いていた。それは紛れもなく俺の本音で、今すぐにでも会いたい。会いたくてたまらなかった。考えない日なんてなかった。もう会えないんじゃないかと、不安に思った日も。
いつになったら会いに来てくれるのだろう。ずっとずっと、待っているのに。
「誰に、会いたいの?」
センチメンタルな気分になっていると、頭上から心地よい声が聞こえてきた。ばっ、と声のした方を見ると、少し大人っぽくなったゆりが立っていた。肩より少し上までだった髪が、胸のあたりまで伸びている。だけど、ゆりだ。ずっと会いたいと思っていたゆりが、ここにいる。
「もしかして、彼女でもできたの?ずるいなあ、自分だけ恋人作っちゃうなんて」
「違うよ。会っていきなり言うことが、それ?」
「だって、会いたい、なんて深刻そうに呟いてたから。元気ないね、精市」
今、この瞬間は夢を見ているのではないかと思う。もしくは、幻覚。会いたいと望んでいたけれど、いざ目の前にゆりが現れると、信じられない。嬉しい、嬉しいけれど、喜んでいいのかわからなくなる。もしもこれが夢だったら、目覚めたときに寂しくなるだろうから。
「……あ、それ」
ゆりの目線が、俺の手元に注がれる。「花冠だ」と、どこかゆりは嬉しそうに言う。約束、覚えているのだろうか。ゆりは、俺と同じようにしゃがんで、頭を俺に向けてきた。
「え、」
「何、くれるんじゃないの?約束したもんね、ちゃんと冠作ろうって」
「覚えて、たんだ」
「忘れるわけないよ。精市との、大事な約束だもん」
ほら、早く。ゆりが俺を急かす。俺は花冠をそっと、ゆりの頭に乗せる。ぴったりだった。ゆりは、満足げににっこりと笑う。どき、と心臓の動きが激しくなる。
会いたかった人が、ここにいる。今、俺の目の前に。ずっと見たかった笑顔が、ある。
「精、市……?」
気づけば、俺はゆりを抱きしめていた。ぎゅう、と離さないように。戸惑うゆりの声が聞こえても、俺はゆりを離すことができなかった。ずっと、待っていたんだ。離したくない、もう。
「会いたかった……っ」
溜めていた想いが、ゆりに会ったことによって放出されていく。会いたかった、笑顔が見たかった、2人でまたここに来たかった、大好きだ……想いが溢れて、全部口に出していた。ゆりは、何も言わなかった。俺の気がすむまで、黙って聞いてくれていた。
「離したくない、ゆり」
そう言うと、ゆりはそっと俺の背中に手を回してきた。
「私も、離れたくないよ、精市」
優しい声だった。まるで赤子をあやす母親のような。安心して、ゆりがここにいると感じて、俺は腕に力をこめた。ずっと、好きだった、誰にも渡したくない、ゆり、俺とつき合ってほしい。一気に、まくしたてるようにそう言った。
ゆりが頷いたのを見て、俺はやっとこれを事実として認めることができた。ゆりがここにいて、俺はゆりに触れているのだと。
「ずっと、大事にするから」
出会ってからの想いを全部ぶちまけて、楽だった。ゆりも同じ気持ちだったことが、何よりも嬉しかった。これから、俺たちの関係はどんどん変わって、お互いが1番大事な人になればいい。これからも、隣にいるのはきみであってほしいと、わがままかもしれないけれど、そう思わせて。