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だんだんと人が増えてきた教室に、囁き声が混じる。女子のほとんどが教室の入口を見ているあたり、おそらく彼が来たのだろう。俺の前の席に腰を下ろすやいなや、机に突っ伏してしまった。珍しいな、あんな幸村。

「幸村、おはよう」

後ろから声をかけると、幸村はゆっくりと顔を上げ、弱々しく「おはよう」と返してきた。そしてすぐにまたすぐに机に突っ伏した。風邪でも引いたか?クラスの女子たちが、心配そうに幸村を見つめている。

「……何かあったのか?」

声をかけるか迷ったが、あまりに様子がおかしいので、声をかけてみる。「……聞いてくれる?」と幸村が顔を上げる。クラスのやつらがこっちに注目してる気がする。

「実は……、好きな人ができたかもしれないんだ」

みんなが幸村の話に耳を傾けていたため、教室はしんと静まり返っていた。そこに、幸村のこの発言。痛いほどの沈黙、その後、数人の女子が小さく悲鳴を上げた。

「まじ?」
「本当だよ。……どうしよう」
「いや、どうしようって言われても。まさかそんな話だとは思わなかったし。っていうか、告ればいいだろ。幸村みたいな男に告白されて、嫌な女子なんてなかなかいないだろ」

予想外の告白に、まだついていけていない。今まで浮ついた噂など1つもなかった幸村だけに、女子たちのショックも大きいようだ。というかこんな幸村、まるで幸村じゃないみたいだ。

「そんな簡単にできたら、こんな風に蓮斗に相談するわけないだろ。それができないから、困ってるんだ」
「いや、そんなこと言われても」
「世の中のカップルは、一体どうやって告白とかしたのかな。不思議でたまらないよ」
「俺もつき合ったことなんてないんだから、そういうのは仁王とかに訊くべきだと思うけど」
「そうだね……。蓮斗っていかにも彼女いそうな顔してるのに、彼女いたことないんだったね」

どういう意味だよ、と突っ込みたくなったが、今回は目を瞑っておく。好きな人がどこの誰なのか訊きたいという気持ちもあるが、こんなところで訊くのもなんだから、放課後にLINEでもすればいいか。

「そう思うと、仁王ってすごいよね。今まで何人の人とつき合ってた?その度に、この告白っていうイベントを乗り越えてきたんだよね」
「いや、仁王の場合は告白されてるばっかりだろうけどな」
「……今日の部活終わりにでも訊いてみるよ」

部活時の厳しく凛々しい幸村と同一人物とは信じられないほど、今の幸村は弱々しい。まさか幸村が恋をするとは。しかも恋をするとこんな風になるとは。やっぱり、面白いやつだな、と思って、思わず笑った。
恋の病と名付けましょう

仁王はなんて言うだろうか。まさかあの神の子が恋だなんて、きっとペテン師も驚くだろう。





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