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『幸村の好きな人って誰?』

夜になって、幸村にそんな質問を送る。しばらく待つと、ぴこん、と音が鳴り幸村からの返信が来る。少しわくわくしながらそれを見る。

『知らない人』

はてな、が頭の中に浮かぶ。知らない人?『どういうことだよ?』と送ると、今度はすぐに返信が来た。

『名前も知らない人なんだ』
『立海の生徒?柳に調べてもらえば?』
『違う。他校の子だよ』

まじかよ、と思わず呟いてしまう。だって、あの幸村が名前も知らない子を好きになるなんて、意外すぎて。どんな子だろうと想像してみる。なんか、ふわふわした子が好きそうだな、なんて勝手に思う。

『どこで見たんだよ?一目惚れ?』
『行きの電車で。まあ、一目惚れだよね。俺が落とした定期拾ってくれて、それで……その……まあ、あれだよ』

まじかよ、とまた呟く。一目惚れ。定期拾ってもらって……なんて、少女漫画にありそうな恋の始まり。少女漫画って全然読まないけど。とりあえず意外。

『そういえば、仁王に恋の秘訣を伝授してもらうんじゃなかったか?』
『そう!訊いたんだよ!そしたら、俺は告白されたことしかないから知らん、って!』

ご立腹な幸村に『ドンマイ』と送って、携帯の画面を消す。それと同時に、ぴこん、とまた通知が鳴る。しかし送り主の名前は幸村ではなく、仁王雅治と表示されていた。噂をすればなんとやら、でも仁王がLINEしてくるなんて、久しぶりだ。

『今日幸村に恋愛相談されたんじゃけど、幸村の好きな人って誰?』
『なんで俺に訊くんだよ。本人に訊けばいいだろ』
『相談に乗ってくれないくせに、とか言われそうじゃから』

確かに。でも勝手に幸村の好きな人の情報を教えてもいいのか。バレたときに文句を言われそうだし、怖いことになりそうだ。うーん、と迷って幸村に確認のメッセージを入れることにした。

『仁王が幸村の好きな人知りたがってる』
『えー?なんで?教えるっていっても、こっちがあの子のこと教えてほしいくらいだよ!』
『そんなこと俺に言われても。適当にはぐらかす?』
『相談に乗ってくれない仁王には教えないよーだ!って言っといて』

そのメッセージを見て、俺は思わず吹き出してしまう。仁王が予想していた返信と同じじゃないか。意外とわかりやすいというか、子供っぽいというか。読めないところがあるくせに、たまにこういう1面を見せるから、やっぱり面白い。

『残念ながら教えないってさ。相談に乗ってくれない仁王には教えないよーだ!って』
『やっぱりか。しかし気になるのう。……いくら積んだら教えてくれるんじゃ?』
『賄賂は受け取りません!あとが怖いからな』

ぷう、と頬を膨らませたひよこのスタンプが送られてくる。こんなスタンプ使って、女子受けがよさそうだな。と勝手に思う。

『でもびっくりじゃ。まさかあの幸村に好きな人できた、なんての』
『やっぱり仁王でもびっくりしたかー。俺もめちゃくちゃびっくりした。ていうか、幸村に好きな人できたこと、明日には学校中に広がってるかも』
『なんで?』
『クラスのやつらのほとんどが聞いてたから。柳に伝わったら、好きな人特定しそう』
『参謀ならやりかねん。じゃが参謀から情報を出させるのは、1番難しいからのう。俺も自分で特定するしかないかの』
『教えてもらってる俺は勝ち組ー』
『蓮斗のけちー。俺と蓮斗の仲じゃろ?』
『おやすみ』
『におくん悲しい』
ノンブレーキで恋してみようか




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