北海道に帰ってくるのは上京して以来、初めてのことだ。

たった2日とは言え、球を受けてくれる人がいない。

どこで、何の練習しよう。

移動中はずっとそんな事を考えていた。



迎えに来てくれた親の車の中、大半の話題は

脳に寄り道することなく、右から左へ流れていった。

きちんと脳まで届いた話は

今日の夕飯、志保ちゃん、そして夏祭り。



去年も一昨年も、夏祭りなんて無縁だった。

人混みもすごいし、暑いし、もともとそんなに好きじゃない。

それでも3年前まで欠かさず行っていたのは

どうなっているのかよく分からない可愛くまとめられた髪と

薄っすらと化粧をした浴衣姿の志保ちゃんが

いつもより浮かれてて、笑顔が多くて可愛かったから。

きっと今年はあの可愛い髪型は見れないだろうけど、

髪を短く切った志保ちゃんの浴衣姿もきっと可愛い。

そう思うと荷物を置いて早々にまたすぐ靴を履いていた。





「え、ごめん。今日バイト」



約束がなくても2人で行くのが当たり前だったから

断られることを考えていなかった。

……志保ちゃんは離れていた期間で随分と変わった。

知らない間に髪が短くなっていたように、

僕が知らないだけで去年や一昨年は

他の人と行っていたのかもしれない。

そう思うと結構ショックだ。



促されるままに家に上がって、青道での話をした。

先輩はこんな人たちで、同級生はこんな人たちで、

後輩や先生、他校の人の話もした。

怒られた事、褒められた事、

初めて御幸先輩に球を受けてもらった時の事、

怪我をした時の事、甲子園の事、些細な日常の出来事。

例えば授業中に起きてられない事だったり、

ご飯を食べるのが大変な事だったり、

練習の後に先輩の少女漫画を買いに行った事なんかも。



僕は面白い話なんかできないけど、志保ちゃんは

間に質問を挟みながら、ずっと嬉しそうに笑っていた。





帰り際、次の日に一緒に遊ぶ約束もしてくれた。

野球部の人にすら強く投げすぎて怒られたことがある。

うっかり力が入ったらと思うとキャッチボールなんて

志保ちゃんとは絶対にできないけど。



夏祭りなんかより、ずっと良い約束ができた。



prev next


          戻る 


ALICE+