昨日と同じ場所に一人で立って

東条くんはやっぱりすごい人だなと思った。



振られるのがどれだけ傷付くか、私だって知ってる。

きっと勇気を出して告白してくれたはずなのに、

まともな返事もなく振られて、逃げられて、

そんな相手が次の日の、それも朝から話しかけてきたのに

まるで何もなかったみたいに、普通に笑ってくれた。



それに比べて私は、今だって逃げたくて仕方ない。



「望月さん!ごめん、遅くなって」

「そんなことないよ。大丈夫」

「でも、寒かったよね。もっと早く来ればよかった」

「ううん。こっちこそわざわざ時間作ってもらってごめんね」



小走りでこちらへ向かってきた東条くんは、

申し訳なさそうに謝りながら私を気遣ってくれる。

ほら、また、東条くんは私なんかにこんなにも優しい。

二人の距離は十分にある。落ち着いて、話すんだ。





「昨日はごめんなさい。動揺して逃げちゃって……」



私の謝罪に対して東条くんは、柔らかく笑って

首を横に振るだけで、何も言わなかった。

話の続きがあることを分かっているみたいに。



「あのね、私、何て言うか、

 東条くんがすっごく好み、みたいな感じで。

 それで変に意識しちゃって挙動不審になっちゃって、

 普通にしなきゃって思うと余計に、うまくいかなくて」



静かに相槌を打ってくれる東条くんの笑顔は

悲しそうな寂しそうな、今まで見たことのない表情で。

胸がぎゅっと苦しくなって、話すのをやめたくなるけど。



「でもね、いつも馬鹿にしたり、からかったりしないで

 ゆっくり聞いてくれるし、優しいし、困ってると

 笑顔で助けてくれて。そんな風に色んなところ知って、

 素敵だなって思うとこも、尊敬できるとこもいっぱいあって

 それで、私、東条くんが好き、みたい、なんです」

「……マジ、で?」



信じてもらえるように、何度も何度もうなずく。

さっきまでの笑顔とも、いつもの笑顔とも

野球をしてる時の顔とも、授業中の顔とも違う。

驚きでいっぱいの表情、こんな顔も初めて見た。



「私、昨日あんな風に逃げちゃったし、

 東条くんの中ではもう区切りが

 ついてるかもしれないって考えたけど、

 ちゃんと、答えが出したくて。

 ……私と、付き合ってくれませんか。」



握った手の平に更に力を込めて最後まで言い切ると

まるで崩れるように東条くんの体がしゃがみこんで、

顔は腕に埋められた。



「やっぱりもう、遅いかな……」

「ちがっ、ちがうから!」



慌てたように立ち上がった東条くんの顔は少し赤くて

へにゃりと力が抜けたように笑っていた。



「俺……ここに呼ばれたのは、

 改めてちゃんと振られるんだと思ってた。

 だから何ていうか、信じらんないくらい、うれしくて。

 付き合って、ください!」



その言葉とその笑顔に、ほっと緊張の糸が緩んで……



「よ、よかったぁ〜〜〜」

「え、ちょ、泣いてるの?!」



ついでに涙腺まで緩んでしまった。

もしかしたら駄目なんじゃないかって、すごく不安だった。

だけどきっと東条くんの方が怖かったはずで、

泣き止まないとって思うのに、自分の体が言うことを聞かない。



「望月さん」

「ごめ、すぐ泣き止……」



泣いてるせいで鼻が利かなくなっていたから

東条くんの声が思ったよりも近くで聞こえて、驚いた。

普段なら耐えられないような距離に戸惑ったのも一瞬で

私が動くよりも先に、

東条くんの顔がピントが合わない程に近付いていて、

唇に触れた柔らかい何かが、触れた気がした。



「あ、泣き止んだ」



悪戯っ子のような笑顔。

また1つ、東条くんの知らない顔を知ってしまった。


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