彼女は落としてしまった
──パリンッ
その時、何かが割れる音が響いた。
呆然とする頭で足元を確認しても、それらしいものは何も見つからない。何も分からない。だけど、私は今確かに何か大切なものを壊してしまったのだと、謎の喪失感に襲われた。
「え、あっ…な、に…、?」
息ができない。
苦しい。
怖い。
力が抜けて床に蹲ると、誰かの手が背中を撫でる感触がする。その誰かの声が、遠くの方でぐわんぐわんと響いている。
これは誰だっけ。
誰の声だっけ。
誰の手だっけ。
分からない。
分からない。
靄がかかったみたいに視界が霞んでいく。それから、誰かに名前を呼ばれながらプツンッと糸が切れるみたいに意識を手放した。