居酒屋の飯は旨い

重い瞼をゆっくりと開ける。
辺りは暗くて自分が夢を見ているのか、起きているのかもわからなかった。

まだ目覚めきっていない脳を働かせながら、だんだんと自分が路地裏に座り込んでいることに気づく。ゴミ箱、何処かのお店の換気扇、何にせようっかりうたた寝するにはとても適さない場所であった。
そもそも自分がどうしてこんな所で寝てしまったのか全く覚えていないのであった。

重たい脚に力を入れてなんとか立ち上がり、暗い路地から光の方へと一歩ずつ歩む。路地を抜けると街灯がちらほら付いているだけでここらの店は大方もう閉まっているようだった。ここがどこかもわからない。しかし先ほどの路地裏でまた一晩を過ごすのは流石に気が引けた。

ガラ と戸の開く音がして二、三軒先の店に目をやると女将と思わしき人が暖簾を下げるところであった。
こんな状況では藁にも縋る思いで、力を振り絞ってその人の元へ向かった。


「あ、の」
「何だいアンタ… 泥だらけじゃないか」

少し驚いた様子で告げられ、初めて自分の服に目をやった。

その人の言う通り、今の自分の格好はとても人前に出られるようなものではなかった。
これではただの不審者である。

「っ…すみません 失礼します」

行く宛もないはずが思わず気が引けて踵を翻そうとする

「待ちな。」

しゃがれた、それでいて凛としてよく通る声を聞いて思わず足を止める。

「そんな状態じゃ行く所もないんじゃないのかい。とりあえず中に入んな」

そう言って暖簾を仕舞いながらその人は店の奥へと入っていった。

良いのだろうか、と今度は私の方まで不審に思いつつ 恐る恐る中へと足を運んだ。


女将さんは私を店のカウンターに座らせ暖簾を片付けた後、何も言わずお冷とご飯に煮物 お味噌を出してくれた。

「そんなに細いナリしていつから飯食べてないんだい。 余り物だけれど無いよりはマジだろうさ」
「…ありがとうございます」

一口食べただけで煮物から優しい味が伝わって、思わず涙が出た。

少しだけ冷静になったからか、いよいよ自分がどうしてあんな場所で転がっていたのかという疑問や不安がじわじわと押し寄せてきた。

ポロポロ涙が止まらないままご飯を口に運ぶ私を何も言わずに見守る瞳だけが、今は何より心の救いであった。