恋は瞬きの隙に
制服が夏仕様に変わった。気温もどんどん上がってきて、玄関の扉を開けると心地いいなんて言えやしない生ぬるい風が吹く。
高校生になってから2回目の夏。いつもと変わらない朝だったはずなのに、登校して自分の席についた数分後。「あの、」突然、机の前に背の高い男の子がやってきて、わたしを見つめている。だれだ
「苗字さん、俺と、友達になってくれませんか」
少し上擦った声で、目の前にいる男の子は手を差し出してくる。なにこの状況、ドッキリ?「あ、俺、森本慎太郎って言います、1年です」『そう、ですか…』「いきなりこんなこと言っても困らせちゃうと思うんですけど…好きです、ひとめぼれしました」『………へ!?』こんな朝っぱらから、しかも周りにクラスメイトもいるのに、わたしをまっすぐ見つめて、とんでもないことを言ってくる。
『え、あ、えっと…人違いでは』って咄嗟に言ったけど、さっきしっかりわたしの名前を呼んでたし、わたしのこと知ってるっぽいよね。周りからの視線が集まってるのもわかったから、なんとかこの場から逃げ出したくて彼のシャツを端っこを引っ張って、人気のない廊下の隅まで歩く。
「すみません、みんないるのに告ったりして…」
『あ、いや、…たしかに、恥ずかしかったけど』
「俺もっと、苗字さんのこと、知りたいんです」
友達からでいいんで。…どうしてわたしなのか、とか、いつからとか、いろいろ聞きたいことはあるはずなのに、その目に見つめられると、うまく言葉が出てこなくて『友達、からなら…』なんて言ってしまう。え、いいんですか!って、たかが友達になるくらいのことで、とんでもなく嬉しそうな顔をする彼に、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、胸が鳴った。
「苗字さんさっきからずっと敬語」俺年下だし、気遣わないでください、なんて言われても急な展開についていけないし、結構難題。『あ、じゃ、お、お互い敬語やめませんか』わたし後輩と話すことなくて。敬語で話されると緊張して。そう説明すると、「わかった、じゃ、苗字さんも敬語なしね?」って少し顔を近づけて覗いてきて。「今日ラインするね〜」って言って自分の教室へと戻っていくその背中を見ながら、なんとなくだけど。なんとなく、わたしは、この人のことを好きになるかもしれない、なんて思った。そんな浅はかな未来を想像してまた胸が鳴って顔に熱が籠る。
教室に戻ると、さっきのはなんだって質問攻めにあったけど、人違いだったらしいって言い訳したらなんとか収まった。その日はずっと授業に集中なんてできなくて、いつもはうざったい太陽の陽射しもなぜかキラキラして見えて、蒸し暑い昼下がりの中たまに吹く風の匂いが気持ちよかった。
***
「なににやにやしてんの」『してないから』「いーや、してたね。てかお前告られたの?」『は!?』「名前に告ってる男がいて〜、でも人違いだったらしくて〜って聞いたけど」『そうそう人違い』「下手すぎんだろ、嘘つくの。相手、慎太郎だろ?」『え、知り合い?』「はい、認めた〜」『は、だる』「俺よく遊ぶんだよね〜」『へぇ』「めっちゃいいやつよ?たまに、ていうかいっつもうるせぇけど。優しいし、律儀だし、イケメンだし?ま、俺よりは劣ってるけど」『樹だるい』
@mugii06 icca. - 恋は瞬きの隙に