君の心が聞きたい


こちらの続き


「名前〜〜どこいくの」

そう言って腰にしがみついて離れない彼。何をどうしたらこうなったんだろう。

数時間前に【飲み会あるから多分遅くなる。ご飯はいらない】と淡白なメッセージを受け取ったきりだった。22時を過ぎた頃、愉快な声とともに開かれた玄関のドア。

「名前〜〜!ただいまぁ!」

声自体は元気だが、へらへらにふらふら。別人格でも呼び起こしたのかってくらいの変貌ぶり。アルコールの力、恐るべし。

『大我くん、とりあえず水を飲もう。あと上着脱いで』
「やだ」
『まじか…』
「ん!」

腰から手を離し、名前が脱がして〜と両手を挙げてわたしを見つめる大我くん。

『も〜』
「なーんて!つーかまえたぁ!」

上着に手をかけようとしたとき、大我くんに抱きしめられる。突然のことに全身が硬直しそうになる。大我くんからスキンシップがあるなんて、明日槍が降るのでは?

「あ、照れてる〜!かぁいい」
『ちょ、大我くんどうしたの』
「ん〜?きょうすっごい飲んできた」
『うん、それはわかるよ』
「名前のこと話してたらぁ、とまんなくて」
『うん?』
「樹にぃ、どうやったら素直になれるかな〜って相談してたぁ」
『いますごく素直だよ』

本来大我くんは素直なほうだと思う。嫌なことははっきり嫌って言うし、好きなものは好きって口に出す。

「俺いつも素っ気ないからさ、名前に嫌われてないかなって」
『嫌うわけないよ』
「よかったぁ」

めちゃくちゃ喋るけど、ほとんど呂律が回っていない。一体どれだけ飲んだのか。

『とりあえず、上着脱ごう』
「はなれたくない」
『上着脱いで、水飲んだら好きにしていいから』

ね、と大我くんを促す。離れた好機を逃さずに、すかさず上着を回収して、汲んできた水を渡す。ちびちびと飲み始める大我くん。これで少し酔いも醒めるだろう。

『お風呂沸かしてあるから、入れそうだったら』
「名前は入ったの?」
『まだ。大我くん先に入っておいでよ』
「いっしょに入ろ」
『え』

着替えこれでいいよね〜と、近くの棚に置いてあった下着やパジャマを片手に掴んでわたしの手を引く。

『待って、一緒には入らない』
「水飲んだら好きにしていいって言った」
『や、それは、』
「だめ?」

赤みを帯びた頬に、酔いのせいでいつもより垂れて潤んでいる両目。破壊力は抜群。絶対わかってやっている。先に入ってて、と彼に告げ脱衣所まで連れていく。しかし「ぬげない」なんてま〜たあざとい発言。

『もお!はい腕上げて!』
「ん!」
『はい、下は自分で脱いで』

下はさすがに無理。さっきから平然を装っているが、そろそろ何かが崩れ落ちそうだ。甘えん坊、というより魔王。しばらくお酒は封印していただこう。脱げない、脱がしてほしいとわがままを言う彼をなんとか宥めて、やっと湯船に浸かる。

『ねえ、なんで抱きしめてるわけ』
「名前がどこにもいかないように」
『行かないよ』
「ほんと?ずっと?」
『大我くんが嫌にならない限り、そばにいるよ』
「…うん、一生俺の隣にいて」

柔く甘やかすようなトーンで話す。思わず振り返って大我くんの顔を見る。あまりにも愛おしそうに見つめてくるものだから、ぎこちなく視線をそらしてしまう。刹那、肩に頭を埋めて目を閉じた大我くん。…まさか、寝た?動こうにも後ろからがっちりと抱きしめられてるものだから身動きが取れない。何度声をかけても起きる気配は一向にない。手を精一杯動かして、お湯を大我くんの顔に掛ける。

「っやべ、俺寝てた?」
『浸かりながら寝ないでよ』
「…は?」
『なに』

パッと大我くんの両手が離れる。

「なんで、名前がいんの」
『一緒に入ろって言ってきたじゃん』
「…俺が?」
『大我くん以外に誰がいるんでしょうか』

酔いが多少醒めたのか、語尾がはっきりして、顔も先ほどより冴えている。

『わたし上がるからゆっくりしてよ』
「なんで?名前もいてよ」

また後ろからぎゅうっと抱きしめられる。デレデレな大我くんも悪くないと思ったのは心に留めておこう。

***

「昨日はすみませんでした」『大丈夫だよ、かわいかったし』「最悪」『わたし以外の前で昨日みたいなことしないでね』「……可愛い」『お?素直だね』「うざ」


@ni_ko_9 icca. - お願い事1


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