誰にでもスキだらけ

『あ、ねぇ瀬呂ー』

消灯時間までの間、風呂から上がったやつがそれぞれ自由に過ごしている。
共有スペースで寛いだり話したり、自室に籠ったり、お菓子を作ったり。
俺はといえばいつも通り切島と瀬呂と爆豪の四人でくだらない話をしていた。

そこに現れたのは何とも露出度の高い涼風。
キャミソールにパーカーを羽織り下はショートパンツ。
たぶん部屋着のまま来たんだろうけど男子の視線を集めていることに本人は気づいていない。

『この前借りたCDあるじゃん。あれ中身違ったんだけど…』
「あ、悪ぃすぐ持ってくる」

一瞬固まっていた瀬呂だったがすぐ立ち上がる。

『え、私も行くよ。』
「い、いやいい!大丈夫!」

そう言って足早にエレベーターへ向かう瀬呂。
いやそりゃこんな格好で部屋に来られたらなんの気も起こさない方がおかしい。
俺たちは思春期真っ只中だ。
涼風はそんな俺たちにお構い無し。

そういや兄貴がいるって言っていたからこれが普通なのか。

瀬呂に用事があっただけで暇なのか空いていた俺の横に座ってスマホをいじり始める。

『瀬呂遅くない?』
「いや今行ったばっかだし」

せっかちすぎて思わず突っ込んでしまうが、正直彼女の方をまともに見れない。
意識すんな、意識すんな、と自分の中で呪文のように唱えているとトン、と何かがぶつかる。

「ちょっと涼風さん?」
『なに』
「俺は背もたれじゃないよ?」
『だってそこに居たから。』

当たり前かのように平然と続ける。
異性として意識されてないのがよく分かって俺辛い。

あれから30分くらい経っただろうか。
一向に瀬呂が戻ってくる気配がない。

涼風はと言えば俺に寄っかかったまま寝息を立て始めている。
いやいやいや、意識してないにも程がありません?!
俺一応男の子なんですけど!

「涼風」
『んっ、んー』

少しは反応を示したが起きる気配はない。
てか今のはヤバい。
本気でヤバい。
バッと切島と爆豪の方を向くと切島はあからさまに目を逸らしていた。
爆豪は欠伸をカマしていたので何も気にしてない様子だ。

てか俺流石に漏れるんだけど。
30分間同じ体制、瀬呂がいなくなる30分前から我慢していたので割と我慢の限界。
切島に代わりを頼もうとも思ったがさっきのことがあるので爆豪に頼む。
嫌々ながらも俺と入れ替わりに涼風の背もたれになってくれた。

舌打ちは聞こえなかったことにしよう。

急いで用を済ませると緑谷達と盛り上がっている瀬呂が目に入る。

「ちょい瀬呂!CDは?!」
「あっ…」

完全に忘れていたようで手に持っているCDケースを団扇代わりにしていた。
まじでこっちは死にそうだったんだからな、と瀬呂に文句を言いながらソファに戻る。

俺と瀬呂は同時に固まる。

それもそうだ。
爆豪はソファの背もたれに完全に寄りかかって寝ていて切島もまた寝ている。
何より爆豪の膝を枕にして涼風が寝ていたことに一番驚きを隠せず瀬呂は持っていたCDを落としそうになっていた。

「ちょ、おい涼風起きろって」

ここに峰田が居ないことだけが救いだ。
声をかけるが彼女は唸るだけで起きる気配はない。
あろう事か寝返りを打って反対側をむく。
要するに爆豪の爆豪の方に顔が向いている状態。
いや、流石にそれはまずいだろ…。
焦りとは別に他の感情がある事には気づいているものの、今はこの状況を何とかしようと涼風の背中に手を回して抱き起こす。

『あれ…上鳴だー』

そう言って今度は俺の肩に顔を埋める。
いや、本当にこいつは…




俺だけに見せてくれ、なんて言葉は飲み込んだ



(じゃあ後は任せた)
(え、ちょい瀬呂!)
(んー…ん?え?!それどういう状況?)
(切島助けてくれよ…)
(爆豪、おい爆豪、起きろよ)
(あ?るせェな。なんだよクソ髪。ブッ)
(いや笑い事じゃないのよ。)
(クソ髪早く部屋行こうぜ)
(悪ぃな上鳴)
(お前らァ…)