狼まであと何秒?


『相変わらずド派手だねー』

平然と俺の部屋に入ってくる涼風。
いやキスした相手だぞ?!
危機感なくね?!
ってキスした俺が言うことじゃないか。

「悪ぃちょっと待って。他のやつからも借りててどれがどれだか…」
『うん。大丈夫ー。』

こういう風に会話をすれば前に戻ったような感覚になる。
こんな風に普通に会話が出来れば俺はもうそれでいいや。
そんなことを考えながら借りた漫画を探していると後ろでギシ、という音がする。
まさか、と思い振り向くと俺のベッドに座っている涼風。

いや本当にまじで危機感ねぇわ。

「あーくっそ…」
『どうしたの?見当たらない?』

心配そうにこちらを見る涼風。
あぁ、もうふざけんな、と探すのを中断し涼風に向き直る。

『な、に…』

警戒心は一応あるようだ。

「この前はいきなりキスして悪かった。」

俺が頭を下げると彼女はビクッとまた肩を揺らす。

「今まで通り普通に会話がしたいんだよ俺は。こんな風に気まずくなって会話できなくなるのが耐えらんねぇ。だから」
『忘れてくれって?』

繋げようとした言葉は彼女の声によって遮られた。

『忘れてくれって何。忘れられるわけないじゃん。』
「え?」
『もう知らない。バカ。アホ。あほ面。上鳴なんて大嫌い』

そう言ってベッドから立ち上がる涼風の腕を掴む。

「まじ待って。嫌いになられると困るんだよ。」
『知らない。困ればいいじゃん。なんで困るの。意味わかんない。』

彼女は目に涙を溜めてこちらを睨む。
そんな顔すらそそられる、なんて俺はどうかしてんだろうか。
可愛くて、堪らなくて、彼女の腕を引いて自分の腕の中に収める。

「俺、涼風のこと好きで」
『えっ?』
「だからキスした。これ言ったら関係が壊れると思って、もう話せなくなると思って。だったら忘れてもうなかったことに出来たらって…」
『ちょちょちょ、待ってよ』

俺の腕の中で暴れる涼風をさらに強く抱きしめる。

『ちょっ、待ってって!』
「誰にでもくっつくし、爆豪のだって…ん"んっ」
『爆豪のってなに』
「いやなんでもない。」
『ちょっと待って爆豪のってなんなの?!』

涼風が思い切り暴れるもんだから先程まで出していた漫画の山に足を取られそのまま二人でコケる。

『勘違い、してるみたいだから言うけど…私上鳴とのキス嫌じゃなかったよ』

俺の上にいる涼風は顔を俺の胸に当てたままそう話し始める。

「じゃあ、なんで泣いて」
『忘れろって言うから。好きな人のキスなんか忘れられるわけないでしょバカじゃないの』
「え、ひでぇ…」
『それに…』
「ちょちょちょ、ちょいまち、今なんと?」

俺の聞き間違いじゃなければ、好きな人って言われた気がする。
いや、気のせいか。

『上鳴のこと好き』

震えた手で俺のTシャツを握る涼風。
そんな可愛いことされて平常心でいられるわけが無い。

上にいた涼風を反転させて組み敷く。

「今、俺の部屋に二人きりって、分かってる?」

俺がそう呟くと涼風はどんどん顔を真っ赤にさせて顔を手で隠す。
どんだけ煽るんだよ、と隠れていない彼女の額にキスをする。

『好き』

顔を隠したまま指を開いて目だけこちらをみている涼風。
あぁもう無理だわ。

「俺も好きだよ」

そう言って手を退かし、今までとは違ったキスを落とす。
今日は部屋に帰せなそう。






狼になるまでもう0秒



(陽向?)
(んー…ん?なんで上鳴がいるの)
(ちょ、待って忘れたの?!酷くない?!)
(ばーか。忘れてないよ。電気、好き。)
(あぁ、もう知らね。)

次の日二人して寝坊して相澤先生に怒られたのは言うまでもない。