きみの心に触れさせて


あの音楽室での一件以降、涼風と会話をすることがめっきり減った。
挨拶はする。
課題とか掃除とか、そんなのは普通だが前みたいに俺たちとは居なくなった。

そんなに俺とキスしたのが嫌かよ、なんて自暴自棄になったりもしたが完全にあれは俺が悪い。
嫌われても仕方ない。
それでも普通に会話をしてくれるだけマシだろう。

「そこをそれに代入して…」
『え、めっちゃ分かりやすい!さすがデクー!』

ここ最近緑谷達と居るせいか緑谷との距離が近い気がしてならない。
俺と仲悪くなったらそっち行くのかよ。
緑谷って呼んでたくせにデク?
俺のことは上鳴って苗字で呼ぶくせに。

「あーーー!もう!」
「うおビビった」
「うるせェ死ね」

俺が頭を抱えると反応はそれぞれ。
爆豪に関しては酷すぎる。

「テメェ何かしたんか」
「何って…」
「ハッ。そういう事かよ」

痛いところをつかれ目を泳がせているとすぐに察したようで爆豪はニヤリと笑う。

「え、何かしたって?」

切島は全く気づいて無さそうだ。

「寝込み襲ったンか?」
「襲うわけないだろ!?キスしただけだよ!あっ」

自分で墓穴を掘った。
思わず口を押さえるがもう遅い。
切島は未だになんの事か分かってないのか目をぱちぱちとさせている。

「クソ髪テメェ鈍すぎだろ。アホ面があの寝坊助にキスしたって話だわクソが」
「マジ?!!」

ここまで割と静かに話していた方だが驚いた切島が思わず大きい声を出し立ち上がったせいでみんなの視線が集まる。
涼風を見れば緑谷と一緒にこちらを向くが、切島が悪ぃなんでもないと言うと勉強に戻って行った。

「だから最近話さねぇのか!」
「拒絶されて殴られでもしたか」
「拒絶はされなかったんだけど、その後から…」

切島と爆豪はちゃんと話を聞いてくれたが途中からため息をついた。
いやなんで?!

「まぁ、後でちゃんと話せよ、な?」
「クソ髪の言う通りだわ。」

二人で話せる機会があったらとっくに話してるんだよなぁ。
避けられまくってんだよなぁ、と心の中で思いつつも首を縦に振っておいた。

意外にもその時はすぐにやって来て、消灯間近の共有スペース、ソファでスマホを弄る涼風が目に入る。

なにか調べているようで先程からうーんうーんと唸っている。

「よっ」

冷蔵庫に手をかけながら声をかけると彼女は心底驚いたような顔をしてこちらを向く。

『かっ、みなり…忘れ物?』
「ちょっと喉乾いて…涼風も飲む?」

また逃げられる、と思いそう聞くと意外にも首を縦に振ってくれて麦茶を二人分コップに注ぐ。

隣に座ろうとも思ったが流石にそれはキモイかと距離を開けて座る。

「そういや最近緑谷と仲いいのな!」
『頭いいし』
「あーうんそうだよな」
『可愛いし』
「可愛い?」
『うん。私の癒し。』

そう笑う彼女はどこか寂しそうで心が痛くなる。
緑谷の事が好きなのだろうか。
でもこれまで会話してる所あまり見た事はない。
いや俺が知らないだけで会話してたのだろうか。
色んな考えが頭を駆け巡るが正直バカな俺には到底納得できる答えなんて出せなくて考えることを放棄する。

「あ、のさ。」
「会話中にすまない。そろそろ共有スペースの電気を消したいんだが…」

申し訳なさそうにこちらを覗く飯田に二人ではーい、と返事をする。
俺が口を開いた時彼女は肩を揺らした。
話したくないのか、それともなにか考えているのか。




俯いたままの彼女の心は掴めない。



(あ、そうだ。この前貸した漫画の続き貸すから前貸してた巻返して)
(あ、あぁ、おう。じゃあ明日渡す)
(いや、今取りに行く)
(い、今?!)
(うん)

(驚いて彼女の顔を見てもやっぱり何を考えているのか全然分からなかった。)