Favorite space
『げ』
「ア?げってなんだよ」
昼休み、食事を終えてさっさと食堂から出るといつもの場所に行く。
校舎裏のベンチ。
少しだけ日が当たるその場所は私の特等席。
が、今日は先客がいてその顔を見て思わず声が出る。
そして冒頭に戻るわけだ。
「お前B組の…モノマネ野郎の女」
『いや物間の彼女ちゃうわ。』
「ア?違うんか」
『誰が死んでも物間と付き合うか』
物間とはただ個性の相性がいいから仲良くなっただけでそこまで親しくは無い。
というか親しくなりたくない。
『涼風陽向。』
「あぁそんな名前だったか。」
『いや絶対覚えてないだろ。』
覚えたわ、とか適当なこと言ってるけど絶対覚えてないこの顔。
『ところでそこ私の特等席』
「だからなんだよ」
『爆豪くんはあっち行ってもらっても…』
「テメェが行けや」
ですよねー。そういう人だよね。
うん知ってた。
「てかここ普通に座りゃいいだろうが」
そう言って自分の横を叩く爆豪くん。
あら意外。優しいところがあるもんだ。
『やっぱり難しいよねぇ』
「は?」
『目標が高ければ高いほど、自分が嫌になる。』
はぁ、と遠くの空を眺めるとハッとバカにしたような笑い声。
「越えりゃいいだけだろ。」
『男前』
「惚れたか」
『わー惚れたー』
「死ね」
そんなふざけた会話をしていると予鈴が鳴る。
爆豪くん話しにくい人かと思ったら全然そんなことなくて寧ろ楽しいくらいだったな。
『私いつもここにいるの』
「だからなんだよ」
『いつでも来ていいよ。爆豪くんならね。』
誰が来るか、と最後にまた毒を吐いて去っていく爆豪くん。
何だかんだで良い人だったな。
私も頑張らないと、と気合を入れて教室に戻る。
それからというもの爆豪くんとは毎日同じ場所で話していた。
なんで来てくれるのかもよく分からないけど、私にとってその時間は癒しの時間だった。
『爆豪くんって彼女いるの?』
「いねぇ」
『だよね。当たり前のこと聞いてごめん』
「はぁ?!テメェバカにすんのも大概にしろよ」
『だからごめんって、痛い痛い痛い』
爆豪くんは私の頭を拳でめちゃくちゃグリグリしてくる。
うん、めちゃくちゃ痛い。
『ねーごめんって』
「陽向はいんのかよ」
いきなり止まった動きに戸惑いながらもいないよ、と答える。
あれそういや名前覚えてくれた?
『爆豪くん名前覚えてくれたの?』
「ア?そんくらい覚えるわ」
『めちゃくちゃ嬉しい!』
頭グリグリされたまま止まっていたので、嬉しいと顔を上げた時はほぼゼロ距離。
鼻だけが掠り動けなくなる。
『ごめ、』
「悪ぃ」
二人して気まずくなりお互い反対側を向く。
何これウブかよ、と自分で自分が気持ち悪くなる。
そのタイミングで予鈴が鳴り、爆豪くんは何も言わずに行ってしまった。
その後タイミングが合わなかったのか、わざと来なかったのか、爆豪くんとはそこで会えなくなっていた。
癒しの空間になったその場所は元通りになっただけなのになんか虚しくて遠ざけていた。
一ヶ月、二ヶ月、隣のクラスに行けば会えるけど、なんかそれは違う気がして足が進まない。
まともに勉強できない物間に勉強を教えることで気持ちを押さえつける。
勉強教えてやってるのに、隣の物間はうるさい。
「ところで最近なんか悩んでない?」
『別に。なんでよ。』
こういうとこだけ妙に鋭いんだよなぁ。
正直爆豪くんに会えないのがこんなに辛いと思ってなかったし、自分の中でそこまで爆豪くんの存在が大きくなっているなんて気づきもしなかった。
「そりゃ見てればわかるさ。」
そう言った物間の瞳がなんだか怖くて立ち上がる。
ガタン、と音を立てて倒れる椅子。
立ち上がって近づいてくる物間に、私も後ろへ下がるが足が何かにぶつかる。
あぁ、壁か。
なんて思っていると顔の横に手。
これが所謂壁ドンってやつか。
全然キュンキュンしないじゃん、そう思っていると横から腕を引かれる。
『ば、』
「爆豪くん」
「こいつ借りるわ」
それだけ言って私の腕を引きズンズンと進んでいく爆豪くん。
正直さっきの壁ドンなんかより、こっちの方がキュンキュンする。
え、待って意味わかんない。
とりあえずズンズン進んでいく爆豪くんについて行くといつもの場所。
もう下校時間でほとんどの生徒はいない。
いつもよりだいぶ静かだ。
爆豪くんがベンチに座ったので私も座る。
「アイツと…モノマネ野郎と付き合ったンか」
最初と同じような質問。
『だから、死んでもあいつとは付き合わないって』
「じゃあなんでさっきアイツに」
『あれは一方的に…』
「一方的?」
『うん、一方的』
質問ばかりなのでとりあえず答えるとはぁ、とため息をつく爆豪くん。
『まじでどうしたの?』
顔を覗き込めば見んなやと手で目を隠される。
でもね、爆豪くん。
指の隙間から見えてるんだよ。
そんな真っ赤な顔されたら、期待しちゃうじゃん。
「俺は別にお前のこと何とも思ってなかった」
『だろうね』
「名前も知らねぇし」
『ほらやっぱり知らなかった』
「茶々入れんな」
『ごめんなさい』
ふざけて茶々を入れてると人殺すんかくらいの勢いで睨まれる。
「だからお前のこと好きになるとか思ってなくて」
『うんうん、っえ?!』
「俺と付き合え」
真っ直ぐにこちらを射抜く瞳。
答えを出そうにも口から言葉が出て行かなくて深呼吸をする。
『私さ、爆豪くんのこと普通に怖い人だと思ってたの』
「あぁ」
『だから最初にここで会った時も最悪って思った』
「だろうな。」
『ここは私が入学してからずーっと一人でいた場所だから。でも爆豪くんに会ってここで話して、気づいたらここで爆豪くんに会うのが日課になってて。』
「…」
『あの日、気まずくなって帰っちゃった日ね、このままキスしてもいいか、なんて思っちゃったりして。』
「ア?」
『だから!…ここで会えなくなったのが寂しかった。前に戻っただけなのに、待ってる自分がいて…』
そこまで言って自分の気持ちに答えがつく。
『私も爆豪くんのことが好き』
「前フリ長ぇわ」
私の精一杯の告白も爆豪くんの唇の熱で溶けていく。
好きだなんて自覚したら愛おしくて仕方なくて何度も唇を重ねる。
『爆豪くん』
「ンだよ」
『ここに来てくれて、ありがとね。』
私の一人の場所が、二人の場所になった。
(そういや物間教室に置いてきたわ)
(ンなのどうでもいいだろ)
(いやアイツバカだから勉強教えないと)
(そんなの他のやつに頼めや)
(そうだね。勝己との時間減るの嫌だし)
(下の名前知ってたんか)
(私は人の名前覚えるの得意なんで)
(俺はお前の名前だけ覚えりゃ十分だわ)
(なにそれデレやん)
(るせぇ)