この世で1番好きな人
『離して』
「無理」
『離せって言ってるの』
「だからヤダって」
放課後の廊下、ほとんどの生徒は下校しているがまだ残っている生徒もちらほら居て彼の向こう側にはクラスメイトの姿も見えた。
なんて所見られてしまったんだ。
『離さなきゃ殺す』
「陽向に俺は殺せない」
知ったような口を聞く彼が今は本当に嫌で仕方ない。
事の発端はつい一時間前。
私がマイク先生に呼び出しを食らったことから始まった。
英語の成績がすこぶる悪くて基礎学の成績が優良なので勿体ないと、大量課題を出され相澤先生に文句を言われながら教えて貰っていた。
それが終わり教室に帰る。
【教室で待ってる!】
彼氏である上鳴からのメッセージは40分ほど前。
急いで行かないと、と小走りで教室に向かっていると、クラスメイトで彼の特に仲のいい友人でもある瀬呂に引き止められる。
「あーあのさ何やってたの?」
『何瀬呂もバカにすんの?』
私がそう笑うと違う違うと否定される。
「てかちょっと喉乾かねぇ?」
『乾いてるけど教室帰ればカバンに水ある』
「あーじゃあなんか奢るから一緒に行こうぜ!」
私の話を聞かず何故か教室に行かせないようにする瀬呂。
違和感でしかない。
『なんか隠してるの?』
私がそう聞くとまぁ分かりやすく反応してくれる。
『はぁ…上鳴浮気してんの?』
「は?!いやいや!そんな訳!」
カマをかければまたまたわかりやすい反応。
正直私よりも可愛い子なんてこの学校には沢山いる。
上鳴は言動はあれだけど喋んなきゃモテる方だとも思う。
それは彼氏だから、とかじゃなく贔屓目なしにも優しいし普通にいい子だと思ってたから。
付き合う前から持ってた偏見。
それが現実になるとは信じたくもなくて無理に引き留めようとする瀬呂を振り払って教室へ走る。
教室についてガラ、と扉を開けると案の定上鳴は女の子に抱きつかれていて、こちらを見てギョッとした顔をした。
「ちょ、ちょちょ離れて?ね?」
「なんでよ!」
『いい度胸してんね。』
焦った上鳴は抱きついていた女の子を引き剥がす。
女の子は嫌そうにしていたが私が声を出すとまた驚いた顔をしていた。
『まー最初からわかってた気がするけどね。本当に最低のド屑だね。』
「これはちが、」
『何が違うの?』
あぁ、なんて可愛くない。
そりゃほかの女の子に行っちゃうのも無理ないわ、と自分でなんか納得しちゃう。
『良かったね。晴れて上鳴はフリーだよ。お楽しみ邪魔してごめんね。』
「だから、違うって」
『何が違うんだよ。じゃあね。もう二度と話しかけないで。』
私は自分のカバンを手に取り教室から飛び出す。
泣かないように、分かっていたことだろう。
彼が私に本気じゃないことくらい、分かっていた。
泣きそうになるのを我慢しながら走るとすぐに腕を掴まれる。
振り向けば今にも泣きそうな上鳴。
泣きたいのこっちなんだが。
と、ここで冒頭に戻る。
『じゃあいいよ。爆豪にでも手伝ってもらう』
「だからそうじゃなくって」
『じゃあなんだって言うの?待ってるって言うからこっちは急いで戻って、そしたら友達使ってまで浮気隠し?ふざけんな』
「浮気隠しってそんな」
『だからもういいって。私はもう上鳴のこと好きじゃない。』
「嘘だ。」
『嘘じゃない』
「じゃあ目見て言って」
私が勢いのまま捲し立てると意外にも彼は冷静なようで目を合わせてくる。
『上鳴なんか、嫌い』
「俺は陽向が好きだ」
私の言葉に反していつも言う言葉を口にする彼。
その言葉に我慢してた涙がこぼれ落ちる。
「ごめん、あれは本当に浮気とかじゃないから」
『…っあれが、浮気じゃないならなんなのっ…』
「あれは一方的に…うん…でもちゃんと断れなかった俺も悪い。ごめんなさい。」
そう頭を下げて謝る上鳴。
『じゃあ、なんでっ、瀬呂が私を引き止めて時間稼ぎしたの』
「それは俺知らねぇんだって。瀬呂の早とちりだよ」
『うそだ』
「嘘じゃない。だから、俺の事嫌いとか言わないでよ。」
そう言って掴んでいた私の腕を引いて抱き寄せる上鳴。
いつもの匂いじゃない、ほかの女の子の匂いがついた彼の匂いに噎せそうになる。
「俺本当に陽向しか見てないから。」
『グラドル可愛いって言うくせに』
「あれは別物!陽向は比べ物にならないくらい可愛いと思ってる」
『それは絶対うそ』
「だから本当なんだって。こうやって妬いてくれんのも嬉しいし、可愛いと思ってる」
私を落ち着かせるように背中をとんとん、と叩きながら頭を撫でる上鳴。
「俺陽向が思ってる以上に陽向のこと好きよ?」
『あーーー、もう嫌いだ上鳴…』
「それとかさ、俺は名前で呼んでるのにいつまでも苗字だし…轟の事は名前で呼んでるのに…」
『焦凍は中学も一緒だから』
「それが本当に嫌なんだよ。」
私の肩を手にして私を見る上鳴。
真剣な目に吸い込まれそうになる。
「なぁ、名前で呼んでくんない?」
『善処します』
「何でだよー」
『だって、恥ずかしいじゃん』
私が顔を逸らせば拗ねてしまう。
『ごめんね。クズとか言って』
「傷ついたなー」
『普段の行いが悪い』
「酷いなー」
『…大好きだよ電気』
私が名前を呼ぶと上鳴はまぁ嬉しそうな顔で私を見る。
あぁ、本当に。
「俺の方が大好き!」
跳ねるように抱きつく上鳴にされるがまま。
「バカップル」
先程上鳴に抱きついてた女の子が通り過ぎざまにその言葉を残していく。
「おー!バカップルだから!悪ぃな!」
その女の子に大声でそう言う上鳴は笑顔で、なんかムカついたので彼の頬を両手で包んでキスをする。
遠くの方で緑谷達の焦る声が聞こえたけど、そんなの知ったこっちゃない。
『よそ見しないでね』
「そっちこそ」
唇を離してそう言えば彼も挑発的に笑う。
世界で1番好き
(え、なに?もう一回言って)
(二度は言わない)
(えーけち!)
(瀬呂しめにいこ)
(そうだよ!元はと言えば瀬呂のせいじゃん!)
(あ、瀬呂発見!瀬呂ー!あんたの早とちりどうにしなさ、え、なに?)
(俺も世界で一番好き)
(聞こえてたのかよ!!!)