01
頭隠して尻隠さず、ということわざがあるがこういうことかと、目の前にある茂みから出ているお尻を眺める。
あーもう少しでパンツ見えそうだなぁ、と眺めているとギャッと声がして茂みから上半身が出てくる。
『ったぁ…うわっ、びっくりした』
手を押えてそのまま座り込んだ人はこちらに気づき声を上げる。
『あぁ、逃げちゃった』
茂みが揺れて反対側からすごい勢いで白い何かが去っていく。
「何、やってんすか?」
多分見た事がないから同級生では無いだろう。
そう思って一応敬語を使うと首を傾げる彼女。
『猫』
「猫?」
『いつもここに居るから今日こそ捕まえようと思ったの』
「なるほど…」
いや分からん。
波動先輩もだいぶ変わってると思うけど、この先輩も変わってそうだ。
『君1Aの子だ。電気の子。』
「え、なんで知ってんすか」
『体育祭見たから』
女の子にコテンパンにやられてたね、と笑う彼女に少し鼓動が早くなる。
「キャパオーバーなだけで…」
『あれ、面白かった。』
くすくすと笑う先輩は立ち上がりスカートを叩いて俺の横を通り過ぎる。
「あの、俺、上鳴電気です。」
なんで名乗ったのかは自分でも分からない。
でも何か知って欲しかった。
俺がそう名乗ると彼女はこちらを振り返ってまた笑顔を向ける。
『涼風陽向だよ。電気くん。』
じゃあね、と言って去っていく涼風先輩の香りが風に乗って自分の鼻に届いて少し変な気持ちになった。
その後、何度か食堂で先輩を見かけた。
こちらに気づくと笑顔で手を振ってくれる。
波動先輩と話しているところも見かけたので多分3年生。
手を振っているところを峰田に見られて紹介しろと散々言われたがそれだけは拒否しまくった。
2人でまた話したくてあの場所に何度か足を運んだが会うことは無かった。
「お前はいんのかよ…」
校舎の裏の方にある、先輩と出会った場所。
そこにはベンチがあって今日もそこへ行くと先輩が捕まえようとしてたであろう子猫が日向ぼっこをしていた。
俺がその横のベンチに座るとその猫は俺の膝の上に乗り欠伸をしてそのまま寝始める。
「なんだ、人懐っこいじゃん」
先輩が必死になっているもんだから、人嫌いな猫かと思った。
撫でてやれば気持ちよさそうに喉を鳴らす。
どのくらい経っただろうか。
退く気配のない猫を撫でているうちに自分も寝てしまったようでハッとして目が覚める。
『あ、起きた』
寝ぼけた目を擦るとそんな声が真横からする。
「えっ、あ、涼風先輩」
『しーッ』
俺の口元に先輩の指が当たり心臓が跳ねる。
先輩が反対の手で下をさすのでそちらを見れば、先輩の膝の上で寝る猫の姿。
あぁ、ずりぃなぁ。なんてどこか猫に嫉妬する自分がいる。
『撫でる?』
先輩は指を離して笑って俺に聞いてくるので、頷く。
『あ、いや、こっちじゃなくて…』
俺は無意識に先輩の頭を撫でていて、ハッとして手を離す。
「はっ、いや!すいません!」
『あっ、ちょっ、』
焦って声を上げたせいで猫は飛び上がり走って逃げてしまった。
『あー…なに?猫に見えた?』
そう意地悪そうな笑顔で聞く先輩に自分の心拍数が上がるのがわかる。
「…なんか撫でたくなって」
『猫に見えちゃったかぁ…』
椅子にもたれた先輩の手が自分の手に少しだけ触れる。
心臓爆発するかもしれない。
俺こんなピュアだったっけ?なんて頭の中で騒がしく言葉が行き交う。
『でも猫だったら何も出来ないよ』
その言葉に何が?と聞こうと顔を上げて先輩の方を向けば一瞬だけ触れる唇。
『…キスは猫でも出来るか』
「え、」
ごめんね、と笑ってそのまま校舎に足を向ける先輩。
引き止めないと、そう思っても足は動かなくて高なった心臓を抑えることしか出来なかった。
この感情の答えを教えてください
(触れた唇が熱を持って)
(じわじわとそれが頬まで伝わって)
(こんな時期に熱中症かよ、なんて)
(気付かないふりをしてみた。)