月と星の夜想曲

「それでそこでオールマイトが…」
楽しそうにオールマイトの話をしながら横を歩く彼。
付き合って二ヶ月になるが横を歩くだけ。
手を繋いだのだってほんの少し。
二人でデートするってこともほとんど無い。
寮までの帰り道、二人で歩くのが唯一話せる場所。
教室では気を使わせると思ってあんまり会話はしない。

『はぁ…』
「はっ、ごめん!つまらなかったよね…」
無意識にため息をついていたようで彼はアワアワとし始める。
可愛いなぁ、何も気づかないとこも好きなんだけどね。
流石に鈍いなぁ、なんて。

『ううん。つまらなくないよ。もっと聞かせて。』
私がそう笑うと彼は目を輝かせてまた話を続ける。
手繋ぎたい、ハグしたい、キスしたい、なんてはしたないのかな。

気づくと寮についていて二人で寮に入り、じゃあね、と言ってお互い自室に向かう。

告白したのは私から。
勢いに任せて言ったけど彼は泣きながら好きだと伝えてくれた。
すごく嬉しかった。
けど、今はその時の感情が本物なのかも疑わしい。

いつも通り夕飯を終えてそれぞれ自室に戻るタイミングで最後までイライラしながらソファに座っていた爆豪くんを捕まえる。

「ア?」
『こわ、そんな怒んないでよ』
「なんだよ」
振り向いた爆豪くんは私だと分かると心底嫌そうな顔をした。

『緑谷くんが』
「嫌だ」
『え、まだ何も言ってない』
「テメェが言うことはだいたい分かんだよ!俺に聞くんじゃねぇ!」
すごい勢いでキレられる。
でもここで引き下がる訳にはいかない。

『緑谷くんが女子にやられたら弱いこと教えて欲しいの!』
「だから嫌だっつってんだろ!」
『そこをなんとか…』
神様、仏様、爆豪さまーと半土下座で頼むとすっごい大きいため息をつかれる。

「そんなんデクに聞けや」
と言いつつ座っていたソファに戻ってくれたので私も横に座る。

『だって手だってまだ数えられるくらいしか繋いでないんだよ?』
「はぁ?!テメェらもう付き合って二ヶ月だろうが」
『ハグもキスもなし。これって私に魅力がないから、とか?』
そう聞くと爆豪くんは黙ってしまう。
あぁ、何となく気づいてたけど傷つくもんだなぁ。
少し辛くなって爆豪くんから目を逸らし出そうになる涙を堪える。

ふぅ、と息をつき顔をあげようとしたところで背中に衝撃。

『え、』
「デク相手にこうやってみろや。」
『こうやって、って…私が爆豪くん側?』
謎に私を押し倒して目の前にいる爆豪くんに聞くと、めちゃくちゃイライラしてる顔してるのがわかる。
てかこれ他の人に見られたら勘違いされるじゃん。

「かっちゃん、何やってるの」
いつもより低い声だが彼だとわかった。
あぁ、一番見られたくない人に見られちゃったな。
爆豪くんは舌打ちをして私の上から退いて緑谷くんに何か話して自室に向かった。

とりあえず起き上がった私は緑谷くんの顔を見れないままソファに座っている。
ひたすら膝を見続けていると膝の上に置いた腕が掴まれる。
そのまま引っ張られて立ち上がり、緑谷くんの後をついていくしかなくなる。

エレベーターで登る時も何度か声をかけたが返事はない。

引かれるがまま着いたのは緑谷くんの部屋。
バタン、と静かな部屋に音が響く。

「かっちゃんと何してたの?」
彼のいつもとは違う低い声に声が出ない。

「ヤキモチ妬かないとか、そんな優しくないよ。でも涼風さんがかっちゃんの方が好きって言うなら諦める。」
『ちが、』
考えもしなかった言葉に顔を上げると、普段とは違う笑顔でもない、ヒーローでもない顔の彼がいた。

「じゃあ、どういうこと?」
『あれは、緑谷くんが…手繋いだりとか、ハグしたり、とか……してくれないから…』
「え?」
『だから、どうしたら意識してくれるかなって相談してたの!そしたら爆豪くんがこうやればいいって教えてくれただけでわっ…』
恥ずかしさでバーッと一気に言うと言い終わる前に顔が厚い胸板に当たる。

「なんだぁ…そっか…」
『っ、爆豪くんが一番緑谷くんのこと知ってるかと思って…』
近距離で聞く緑谷くんの声にそわそわしながら話を続ける。

「不安にさせちゃってごめん。僕、その好きな人とか初めてで、どうしたらいいか分からなくて…」
苦笑いしながら体を離した緑谷くんに私も笑う。

座ってと促され彼のベッドに腰をかける。

『…キスだって、したいんだからね』
そう小声で呟いた途端、デジャブ。

ギシ、という音と共に背中と後頭部に軽い衝撃。
先程とは違う、緑谷くんの顔。
爆豪くんに押し倒された時はえ?どうした?何?って戸惑いが強かったけど、今は口から心臓が出そうなほどドキドキしてるのが自分でもわかる。

『緑谷く、んっ…』
名前を口にすると最後まで言い終わる前に口を塞がれる。

「そういうこと言われると、僕歯止め聞かなくなるけど…いい?」
電気もついていない部屋に月明かりだけがさしていて、彼をより一層色っぽくさせる。

『いいよ。』
私がそう口にすると直ぐにまた触れる唇。
先程とは違うキス。
あぁ、明日が休みでよかった。なんてまたはしたないことを思ったりした。

「僕の部屋に居ること、バレないようにしないとね。」
そう笑う彼の顔を誰にも見せたくなくて、彼の頬を包んで私からキスを落とした。







月だけは知っている。


(緑谷く、)
(出久って呼んで欲しいな。)
(い、出久、くん…)
(んーまぁ今はそれで許してあげるよ陽向。)
(いつもの出久くんじゃない…!)
(こんな僕、嫌い?)
(むしろ好きです)
(良かった。僕も好き。)
(所で爆豪くんになんて言われたの?)
(え?!あ、いや…はよ寝ろやって!)
(何それ笑)
((まぁ本当は…))
(("モタモタしてんなら、俺のもんにするわ"だったんだけどね。))