07


『へえ…それで一年がまだ居ないんですね。』

帰り道三年生三人と並んで帰路に着く。

「押耳さんは影山と同じクラスだっけ?」
『はい。』
「どう?友達できた?」
『はい。何人か…。ただ中学からの友達は居ないので、まだ距離があるなって感じはします。』

先を歩く澤村先輩と清水先輩はバレーのことについて話しているようで、先程から菅原先輩が話を振ってくれている。

『あ、私こっちなので』
「家まで送ってくべ。」
『えっ、でも』
「大地ー!清水ー!」

先を進む澤村先輩達はそのまま直進らしく、私は曲がるのでそう言えば菅原先輩は澤村先輩と清水先輩に声をかける。

「押耳さん送ってくからここで!」
「おー!頼んだぞー」
「押耳さん、また明後日。」
『あ、はっ、はい!』

未だ戸惑っている私の腕を引いて横道へと進む菅原先輩。

「中学どこなの?」
『ねこ、あ、東京の方で』

話を続ける菅原先輩に、音駒と返しても伝わらないだろうと東京とだけ伝える。

「へえ!すげぇな東京!やっぱりバレー強いとこだった?」
『いえ、そんなに…ギリギリの人数で、でも楽しくやってましたよ。』

二人と一緒に過ごした中学生活はたったの一年。
何回辞めようとする研磨を引き止めたことか。
その度に嫌そうな顔をしながらも仕方ないと続けて、研磨も随分甘いななんて思い出して頬が緩む。

「…好きな人でもいたの?」
『えっ?』

何故そう思ったのかは分からないが私の顔を見つめて立ち止まる菅原先輩。

「この質問なんかキモいな」

私がなかなか答えないからか苦笑する先輩に首を横に振る。

『幼馴染が二人、バレーやってたんです。』
「そうなの?」
『一人は運動とか嫌いで、それでも私ともう一人への義理みたいなものでバレー続けてて』

立ち止まっていた足を動かして歩を進めながら二人の話をする。

『もう一人は…不器用だけどバレーに対しては凄く真っ直ぐで、凄く』

言葉の続きが喉の奥で詰まる。

凄く、好きで、かっこいい人。
これを言ってしまえば思い出して泣いてしまうから。

『ひねくれた人です。』
「ひねくれてんの?!」
『はい。嫌ってほどひねくれてます。』

誤魔化すようにそう笑えばそれは嫌だなーなんて笑ってくれる菅原先輩にほっとする。

「まぁバレーへの向き合い方は俺達も負けてないから!」

腰に手を当ててドヤ顔を見せる菅原先輩に少しだけ心が軽くなった。

「あら蒼葉ちゃん、遅かったねぇ」
『おばあちゃん!』
「あらあら。早速男前つかまえて」
『ちょっ、おばあちゃん?!』

不意に現れた祖母に驚いていると、祖母は私に目もくれずに菅原先輩をアイドルのように見つめる。

「見る目ありますねー!」

なんて菅原先輩も乗るもんだから、二人の間に入ってなんとか祖母の意識をこちらに向けさせる。

『ほらおばあちゃん、風邪引いちゃうから早くお家入って!』
「はいはい」
『菅原先輩、ありがとうございました!』
「気にすることないべー!じゃあおばあちゃんもまた!」
「またねぇ」

楽しそうに菅原先輩に手を振り返す祖母の背中を押して家に入れる。

『じゃあ、気をつけて帰ってください』

私がそう言って家に入ろうとすると先程と同じようにまた腕を掴まれる。

「アドレス!」
『えっ?』
「連絡先!聞くの忘れた!」
『あ、はい!』

そんな事か、と携帯を取りだしてアドレス交換をする。
こっちに来て新しく増えた連絡先は三つ目だ。
嬉しくなって少し頬が緩む。

「じゃあ、また明後日な!」
『はい!』

笑って手を振り去っていく菅原先輩にお辞儀をしながら手を振り返し家の中に入る。

「まぁまぁ男前捕まえたわね。」
『お母さんもおばあちゃんと同じこと言わないでよ。』

ニヤニヤとこちらを見る母親に先程の祖母の姿を重ねたのは言うまでもないだろう。