08


金曜日も変わらず過ごし、入部して初めての部活。
眠い目をこすりながら学校までたどり着くと、目が覚めるほど神々しい清水先輩が校門に立っていた。

「一緒に着替えてから行こうか。」
『は、はい!』

未だに緊張する清水先輩との会話。
更衣室に向かう道中は心臓の音が聞こえないか心配で胸の当たりを押さえて黙っていた。
既に着替え終えている清水先輩を待たせる訳には行かず急いで着替えを済ませる。

『清水先輩は』
「潔子でいいよ。」
『へっ、あっ、じゃあ、潔子先輩で…』
「うん、蒼葉ちゃんって呼ぶね。」

そう笑う清水先輩、元い潔子先輩はやはりとても美しい。
もう何を聞こうと思ったのかも忘れてしまったので、近くなった距離をただ噛み締めることにした。

「あ」
『げ』

潔子先輩に連れられ体育館に辿り着くとクラスメイトと目が合う。
そうだ。一年が加わるってことはもちろん彼もいる訳で、今のところまともに会話したのはあの一回きり。

気まずくて思わず態度に出すと彼は人でも殺めるのかってほどの眼力で睨んでくる。
いや、怖い怖い。怖いです。

思わず潔子先輩の後ろに隠れるとこの前はいなかった小さい子とソバカスの子とメガネの子が目に入る。

ソバカスくんと目が合い会釈すると彼もまた笑って会釈してくれた。
影山くんとは大違いだ。

「よーし、じゃあ始めるぞー」

そんな澤村先輩の言葉に少しだけ胸が踊る。
澤村先輩はメガネくん達のチームに入るらしい。
何故かメガネくんは影山くんにとても喧嘩を売っていて始まる前から何かピリピリとしていた。
それも吹き飛ばす田中先輩は流石としか言いようがない。

ただ小さい子のスパイクは中々決まらなかった。
小さい子の身長は私とさほど変わらない。
メガネくんの高いブロックが彼を地面へと引きずり下ろす。

悔しそうな表情を見ると少し心がキュッとなった。
それに対して影山くんのサーブ。
だいぶ強いものだったけどそれに対応する澤村先輩のレシーブには安定感があった。

簡単に崩せると思うなよ、と笑う澤村先輩には頼もしさと恐さが見えた。

「ホラ王様!そろそろ本気出した方がいいんじゃない?」

そんな言葉が静かな体育館に響く。
メガネくんの言う"王様"が何かは分からないが、いいものでは無いことは言い方でわかる。
小さい子の言葉に淡々と返すメガネくん。

「自己チューの王様。横暴な独裁者。」

影山くんが言い返すことは無い。
事実だからだろう。
ただ少し俯いて手を握りしめている。

『ちょっと』

影山くんは愛想は無いし見ててイライラするけど、そんなこと他人がどうこう言うことではない。
言い返してやろうと私が一歩踏み出せば、田中先輩の声が静かに響く。

「てめえさっきからうるっせんだよ」
「田中」

それを止めた澤村先輩の声によってまた体育館は静寂に包まれる。

「…ああ、そうだ。トスを上げた先に誰も居ないっつうのは心底怖ぇよ。」

影山くんの表情は伺えないが、きっとクラスで見るムカつく顔では無いのだろう。

「えっ、でもソレ中学のハナシでしょ?」

重い雰囲気を変えたのはあの小さい子だった。
彼の言葉はただ純粋で、バレーが出来ることをただ喜んでいるようなそんな感じ。
昔のあの人にそっくりだ、なんて。