01
不毛な恋―――
教室の一番後ろ、一番窓側の席。
私はそこからただ二人を眺めてる。
お互いを思ってることなんて分かりきっている事だ。
「ほんとあの二人仲良いよね」
「付き合っちゃえばいいのに」
「お似合いだよね」
教室の後ろに溜まっていた女子たちの声が嫌でも耳に入ってくる。
ズキン、と胸の奥の方が痛む。
彼が私のことを見ていないのなんて最初からわかっていたのに。
幼馴染に借りた本を開いて物語の中に入り込む。
そうしてる時間が一番傷つかないから。
「ねぇ聞いてよ快斗ったら酷いのよ」
先ほどまで少し遠くで揉めていた二人。
気づけば一人が私の机の横にしゃがんでそう上目遣いで怒っている。
『それは黒羽くんが悪いね』
そう言って彼女の頭を撫でるとでしょ?なんて可愛い顔でふくれるのであぁ勝てないやと再確認した。
「おいアホ子!なんで苗字にチクってんだよ」
「ば快斗があんなこと言うからでしょ?!ほんっと最低!!」
あーあー、他所でやってくれ。
私の傷を抉るのはやめてくれ。
頑張って作った笑顔も段々と引きつっていく。
あぁもう無理だ、と視線を下げると覗き込むように現れた彼。
『わっ、』
「大丈夫かー?具合悪ぃの?」
そう言って私のおでこに手を当てる。
彼の手の熱が伝わってどんどん頬が暑くなる。
『だい、じょぶ。ねむいだけ。』
上擦った声に気づかれませんようにと彼の手が離れるように窓の方へと顔を向ける。
無理すんなよ、と頭に手が乗りポンポンと優しく撫でていくので心臓はよりいっそううるさくなった。
諦められたらいいのに、と本を読むふりをして熱を冷ました。
「ねぇ校門のとこに男の子いるよ」
「あれって高校生探偵の工藤新一じゃない?」
放課後、今日は部活も休みだし、とのんびり帰り支度をしているとそんな声が聞こえて思わず立ち上がり校門の方を見る。
つまらなそうに校門に立つ彼は紛れもない幼馴染だ。
荷物を適当に突っ込んで教室を飛び出す。
「あ、苗字」
『くろ、ばくん!またね!』
彼と話したかったが幼馴染に人集りが出来ては面倒だと廊下を走った。
校門に着くと本から目を離してこちらを見る彼。
『っ、はぁ…なんで、新一がっ…』
息切れを整えながらそう問うと本を閉じる。
「昼にメールしたけど」
『はぁ?』
そう言われて携帯を開けば
【お前今日部活休みだろ?蘭達が一緒に遊びてぇって言うから迎えいく】
とだけ来ていた。
気づかなかった私も悪いが自分が有名人だということを理解して欲しい。
『新一さ、自分が有名人だってわかってる?』
「あぁ!何しろ超天才の高校生探偵だからな!」
ドヤ顔でそう言ってのけた新一の頭を叩く。
『なんで蘭たちがお迎えじゃないのよ』
「なんでって。なんかお前に言いよる変な虫を追っ払ってこいって。」
『そんな虫いないわ!』
そう言いながら二人で米花町へと向かう。
隣を歩く新一は基本的に相手に歩幅を合わせるので少しだけ早足で歩いた。
『どうしよう勘違いされたら』
「そんときはボーイフレンドだって言っとけよ」
『何でだよ』
「言葉の通りだろ。男の友達。それにその方が面倒くさくなくていいだろ?」
あんたねぇ、なんて呆れながら隣を歩く新一を見やる。
やっぱり少しだけ似てる。
でも私新一には一度もときめいたこと無いんだよな、なんて失礼なことを思いながら蘭たちの待つカフェへと急いだ。
「なんだあいつ」
窓から見えた私たちにそう呟いた彼の言葉は聞こえるはずもなかった。