02
《怪盗1412号、通称怪盗キッドの予告は本日、暗号の解読はまだ進んでいないようですが今回もしてやられるのか》
そんなニュースを眺めながら牛乳を口に含む。
『お父さんってこの怪盗見たことあるの?』
珍しく両親ともに揃った朝食。
私が目の前に座る父にそう聞くとチラッとニュースに目を向けて笑った。
「いや俺は見た事ないけど、ほら青子ちゃんのお父さんいるだろ」
『中森警部?』
「あぁあいつはどうやら手を焼かされてるみたいだよ」
俺もあっちに行きたいねなんて笑う父は警視庁の捜査一課の刑事だ。
父と青子ちゃんの父親は警察学校の同期。
小さい頃からよく遊んでいた。
人の死を見なくて済むのはいい事だ、と少し寂しげに笑っていた。
母はそれを見て何を言うわけでもなく空になったカップにコーヒーを注ぐ。
「それよりそろそろ出なくていいの?朝練でしょ?」
『あ、うん。』
残りの牛乳を飲み干して歯を磨きバタバタと家を出る。
『いってきます』
そう声をかけると行ってらっしゃいという二人の声は揃っていた。
玄関が閉まる寸前、父の口元を拭いてあげる母親の姿が目に入って朝からお熱いことで、と苦笑した。
朝練が終わるとそれぞれシャワーを浴びて教室に向かう。
まだ少しだけ湿った髪を放って席に着くと少しだけ涼しい風が頬を掠める。
「ねぇ、聞いた?怪盗キッドの話!」
「カッコイイよねぇ」
そんな話が飛び交う教室。
彼のお陰で私が先日高校生探偵と帰ったことは忘れ去られていた。
ほっとしたのもつかの間前の席が引かれ朝話にも出た彼女がそこへと座った。
「みんなしてキッドキッドってやんなっちゃう!」
『はは、女の子って悪い男好きだからね』
青子ちゃんは何よ!とむすくれている。
そりゃそうだ、自分の父親が弄ばれている犯罪者。
面白くはないだろう。
『でも宝石は返してるんでしょ?』
「そういう問題じゃないの!もしかして!名前ちゃんも好きなの?」
眉を下げて、そんなーと嘆く彼女に首を横に振る。
『そういうのよくわかんないもん』
「良かった〜!みんなキャーキャー騒いじゃって仲間ハズレかと思った!」
私たちはキッドアンチで行こうね!なんて両手で手を握ってくるので軽く頷いて笑っておいた。
とは言ってもニュースや新聞でしか見たことの無いそれを全て悪いと言ってしまうのも考えものだ。
青子ちゃんと違って父親が翻弄されている訳でもないし。
そして何よりそんなことに悩んでる暇はない。
私の悩みの種と言えば―――
「よ!おふたりさん!」
そう言って私の隣の席に腰をかける彼。
何の話?なんて私と青子ちゃんを交互に見る。
「怪盗キッドよ。みんなあんな犯罪者に浮かれちゃって!」
「まーたその話かぁ?」
「何よ!ちょっとマジックができるからって怪盗キッドの味方しちゃって!」
名前ちゃんも仲間なんだから!と言って私の腕を抱きしめる青子ちゃん。
私は、はははなんて苦笑しながら彼女の腕に手を添える。
「苗字も怪盗キッド嫌いなの?」
『えっ?あー』
嫌いというかそんなに興味はない。
そう返す前に青子ちゃんが全力で首を縦に振る。
「私と名前ちゃんは警察の娘として怪盗キッドを許さないわ!」
ふんっと顔を逸らして自分の席に戻っていく青子ちゃん。
残された私と黒羽くんの間には沈黙が流れる。
「あー、あのさ」
先に口を開いたのは黒羽くんだった。
「この前一緒に帰ってたヤツって」
「はーい!みんな席に着いてー!チャイム鳴ったわよー」
担任のその声にチェッなんて席を立つ黒羽くん。
「後で」
いつもより静かな声でそれだけ言って席に戻っていく彼はどこかいつもと雰囲気が違って見えた。
それだけで私の胸は騒がしくなるんだ。