「えへへっ、おおきに!」
嬉しそうな笑顔で
「ありがとうございます」
「いえ、喜んでもらえてよかったです」
「あたし羊羹めっちゃ好きやねん。万理くんは?」
「僕は……基本好き嫌いがほとんどないので、そうですね……あ、
「飴ちゃん? どうしてなん?」
志乃が不思議そうに聞き返せば、万理は
「え、えっと……勉強しながらでも食べれるから、ですかね」
「へぇー、やっぱり万理くん偉いなぁ、ずっと努力してるんやね」
「そ、そんなこと……」
デジャヴ。
いったい誰がそんな言葉を考え付いたのだろう。見覚えのあるような気がする万理のしどろもどろ加減に、隻はそっと視線を逸らした。
響基がほのぼのと笑っていて、止めておけと言うべきか否かで頭が揺れる。揺れるけれど、海理がいる手前、下手なことを言って勘付かれでもしたら万理がかわいそうだ。
そもそも万理はまだ……。
『政、今日は仕事ねーんだろ』
「ん。フリー」
こっくり頷いた青年に、隻は「え?」と驚く。響基も意外そうな顔だ。
「政和さんと海理って、ペア組んでたの? ――あ、そういえば一昨日言ってたか」
『正確にはオレと政と天理。んでもって将太とヨシ子と
紀美という名前に、隻は耳を疑った。
食事にかにかまが出る度、政和が持っていく仏壇。千理が手を合わせる度に出てきていた名前だ。
確かその人は、翅に関わる事件で亡くなったと、本人が言っていた気がする。
『ヨシ子は情報収集が取り得つっても、入ったのは最近なほうだ。天理にはまだ言ってねーけどな』
「あれ、まだ言ってなかったの?」
ヨシ子が自前のタイ焼きを配りながらきょとんとしている。万理が苦い顔でそっぽを向いたではないか。
「兄さんたち、連絡ずぼらすぎますよ……」
『いつでも会えるしいいだろ』
「よくないだろ」
隻と響基、複雑な顔で突っ込んだ。連絡不足には嫌というほど覚えがあるだけに。
羊羹を食べ終えた志乃がタイ焼きをもらって顔を輝かせ、万理が茶を忘れていたと走っていっても、なんとも言えなくなった。
そこに茶沸かし用のポットがあるのだけれど。
途端に響くリズミカルな地響き――いや違う。リズミカルなステップに、隻は頭を抱えた。
なんだろう、凄く覚えがある。ありすぎてデジャヴなんて言葉を考えた人間を呪いたくて仕方がない。
響基の顔が花開くように輝き始めた瞬間、あの当時は殴りたかった翅が今いないだけに肘で突きたくて仕方がない。
「たっだいまっすよー! ひゃっほーマイハウスさいこぉぁぁぁあああああぃや――ふぅっ!?」
叩き飛ばされた。誰がと言えば、帰ってきた人間が。何にかと問われれば、バスケットボール三つに。
肩で息をしてまで、投げ飛ばした体勢のまま苛立ちを募らせる隻に、響基もいつきも微動だにしなくなっている。
「……な、なんで? 隻どうした?」
「なんかわからないムカついた!」
「なんで!?」
「……とんだとばっちりだな」
障子の開いた隙間から、翅が恐る恐る顔を覗かせた。
「……ただいまー」
……。
また一人ひょっこりと顔を覗かせた姿に、響基が
「ただいまーうわー帰ってくるのこんなに早いの何年ぶりだろねー」
「ねー」
「ん……お帰り」
タイ焼きを飲み込んで親指を立てた政和以外、誰もコメントできなかったという。
「あーそういえばあったな。独房で反省が終わった千理が、隻さんの苦労も知らないで扉開けて、バスケットボールで吹っ飛ばされたの。いやー懐かしい懐かしい。去年だよなーそういえば」
ああと納得して視線を逸らしていく一同。翅に頷いた隻は、しかしその後の口の動きにまたバスケットボールを用意する羽目になる。
じんめんけんなつかしいなーごめんなさいっ。
よしと頷いて、ボールをしまった。翅の顔が真っ青になっている隣、一緒に帰ってきた縁道は
「じゃあその時よりボールの数増えたんだ?」
「増やした」
「そっかあ」
「特別サービスかぁ」
「やあ天理兄さんお帰りー」
「やあ縁道、翅お帰りー」
「あれオレは!?」
「あれ、いたんだ千理。お帰りー」
砂利道で
こいつら最低だ。
その最低な二男のほうは、あっさりと部屋に入って即、隻に紙を一枚渡してくる。
「これ、おじさんから。初任務ファイト」
「は!? え、何!?」
慌てて紙を手に目を見開く隻は、内容を見て
座敷童の
「……海理」
『あ?』
「……契約してくださいお願いします」
『やなこった』
「しょうがないだろ多生さんからのお達しなんだよ!!」
海理と契約した後、夜、三十三間堂付近で出没しているインプの退治もしくは捕獲をせよ。同行者は万理と結李羽と、やはり海理の組み合わせ。
隻の頭の中には漢字二文字しか浮かばない。
最悪。
「響基と悟子にも入ってるよ」
「え!? 翅は!?」
「帰ってきたばかりだしね。代わりにおれが入って調整しようか。あ、場所は
「やめて!? 洒落に聞こえないよ!?」
「……洒落じゃないな、こいつのは」
「さすがいつき。よくわかってるなぁ」
「……帰るか」
超最悪。
「うわー悲しー」
「ええっ!? オレには依頼入ってないんすか!?」
「入れるわけないよ、おじさんそこは優しいだろ」
優しいけど優しくない。