いつきを見据えて出た言葉は、はっきりと。
いつきを見据える目も、しっかりと。
「逃げてばっかでレーデン名乗れるかよ」
「……もう十分名乗れるよ、お前ならな」
笑んで突き出された拳に、拳がぶつけられた。
二人でにっと黒く笑んでしまい、すぐにいつきが自分の羽織と裾を捲くったのを見てぎょっとする。
「は!? え、ま、お前何する気!?」
「決まってるだろ、血」
「また!?」
「阿苑の純血だからな。高いぞ」
「待った殺される、阿苑に殺されるよエキドナの子供じゃなくて!!」
「安心しろ。
「以前の問題だろ!?」
あっさり捲し上げた後腕を持ち上げ、いつきは面倒くさそうに溜息をついたではないか。
「
「聞けよいや聞いてください!! 勘弁しろ!!」
「じゃあお前は誰から血をもらうつもりだ。俺以外の適任がいるなら言ってみろ」
「……」
沈黙。
返す言葉を探すどころか出てくるものは言葉ではなく冷や汗のみ。誰を頭に浮かべてもすぐに拒否が出る。当然いつき本人も以ての外なのに。
どうする
マジでどうするってか
どうする以外で言葉出ろよ俺!!
「せ、隻さん何騒いで――」
「ああ、適任もう一人いたな。あいつでいいか」
いつき――――――――!!
にやりと笑う兄貴分に、冷や汗で上着まで湿っている隻のコントラストを前に、千理が固まらないはずがなく。万理も恐る恐る覗いて――何を察したのかはっとしている。
「な、何をされるおつもりですか!?」
「採血」
「はいいっ!? 器具も使わずに危ないですよ!?」
「突っ込む場所そこじゃないだろ!!」
「え、ま、まさかまた隻さんに飲ませる系!? ちょっ、いくらなんでもまずいでしょいつき兄は!!」
「よし。ならお前がやれ」
いつき、ドヤ顔。千理、干された。
万理、慌てて頷く。
「採血道具揃えてきます!!」
「必要ないだろこいつなら」
「やめたげてえええええええっ!!」
「いつきー凛さん先に隼さんとこ行ってたってー今こっち来てるって」
「うぇいとおおおおおおおおっ!?」
「丁度よかったな、お前もやるか採血」
「やらねーよ千理がいいじゃん千理。ほら行け狸」
「やんないよ狸じゃない!!」
騒ぐ騒ぐ。煩い以外の何物でもない。
いつきが呆れ果てたように溜息をついたではないか。
「なら俺がやるか」
「ストップストップたんまウェイト!!」
「みんな発音悪い!!」
「あっち行け響基!!」
「ひどっ!?」
「いい加減にしろ高が血ごときで」
「俺の気持ちも考えろ頼むから!!」
「今こうしてる間に海理たちがどうなっているかわかってるか」
ぴたりと、隻は口を閉じる。
いつきはじっと隻を見つめ、片手には既に幻術で刃物を創りだしている。
「俺はあくまでも真剣だぞ」
「手にあるのからね」
「黙れ」
すぱっ。
浅くとはいえあっさり斬られた腕に、万理と千理が顔を真っ青にしたではないか。
「いつき兄さん止血準備まだですよ!!」
「大袈裟すぎるんだお前は!!」
勢いよくいつきの腕が伸びて、隻の頭を押さえつける。慌てて待てと言おうとした口に
不自然な動きでいつきの血が滑り込んだ。
……。
デジャヴ。
顔が真っ青になる隻に突然襲い掛かる頭痛。床に転がっているうちに万理が慌ててタオルと消毒液を持ってきて、いつきの腕を消毒して。
千理が恐る恐る隻の隣に座っている。
「せ、隻さん大丈夫……?」
「……っつぅ……!」
「あーあー。ていうか血液で拒絶反応とかってなかったっけ。阿苑の血拒絶したら罰当たりそうだけど」
「拒絶反応は多少あって不思議じゃないだろ。多分こいつの場合は、祖父が仕込んだ鍵と血が反発しあってるんだろうな」
念のために強化されてても不思議じゃないだろ。
平然と語られたところで、隻はといえば頭を抱えて激痛に耐えるばかり。立ち上がろうにも手足に力が入らず、呻くだけで精一杯だ。
「隻、大丈夫かー」
「っぁ……つぅ……! 平気に見えるかよ、これ……! いだっ」
目がチカチカする。
霞みかけてぼんやりする中、小さな手の平がそっと頬に触れた気がした。
吐き気が一瞬だけ走り、落ち着いたと同時に何かが体に浸みこんでくるような。薄っすら目を開けて周囲を見渡すと、秋穗が泣きそうな顔で濡れたタオルを手に近づいてきている。
「お兄ちゃ……あ!」
「……だ、大丈夫……つぅ……治まった……」
秋穗がタオルを額に乗せてくれ、その手を優しく握ってやる。泣きそうな顔で笑う座敷童に、隻はなんとか笑顔を見せた。
いつきはいつきで、平然とした顔で処置された腕を確かめ、隻を見下ろしている。
「前回より長かったな」
「……俺が聞きたい。けど……なんか、感覚が変」
「どういう感じで?」
翅の指摘に首を傾げるしかできない。そんな中、縁側の障子の向こうから呆れた溜息が投げられた。
「いつき、使ってる呪術で一番簡単な符渡してやってよ」
天理に「いつ来た」と返しつつも、言われた通り隻に符を渡すいつき。もらった隻は怪訝な顔で符に力を流すイメージを持った、次の瞬間だった。
拳二つ分の炎が一気に燃え上がり、全員がぎょっとする。
「う、うわっ!?」
「消せ早く消せっ!」
「えっ、あ、どうやって!? ぶっ」
上から水が降り注いだ。アヤカリがけたたましく笑いながらすぐに持ち上がって、水分をどけてくれる。
『凄いねー、いつきの血取り込んで呪力が凄く増えてるよ! あれ? ってことはもしかしてエキドナの血目覚めたの!? 隻子供産んじゃうの!?』
「まだそのネタ……!」
「結局
天理のつまらなさそうな声にかちんと来る。彼は肩を竦めてうすら笑んだ。
「今の状態で幻境行ってきたら、呪術使い放題じゃない? いつきの血なら呪力有り余ってるだろうしさ」
「……お前気づいてたのか?」
「ああ、うん。さっき隻の体、ドッペルに乗っ取られたんだけど、その時にね。海理の術の操り方だけじゃなくて、
天理がにやりと笑んで見やる先は、あの九尾狐の見た目少女で。
目を輝かせて頷く標に、隻の顔が青ざめた。
「スペックは多いに越したことないよね。お願いします」
「
「あ……ま……やめ……!」
勘弁しろ―――――――――っ!!