はじまり
私が覚えているのは、暗い夜道。車のライト。響くブレーキ音。そして…全身の痛み。
”あれ?”
ふと目を開けると、そこは知らない場所だった。
石造りの広い廊下。辺りを見渡せば日差しが柔らかく芝を照らしていて。見慣れないこの場所は、何処かぼんやりとした雰囲気を醸し出している。
”何処だろ…此処”
声を出すがなんだかいつもと違う気がする。ふと足裏に冷たさを感じて下を見ると、何故か自分が裸足であることに気が付いた。裸足で歩いた事など幾年も昔の話で、石の冷たさや足に吸い付く感覚が可笑しくてペタペタと足踏みをする。
人の声など一切せず、鳥の声が小さく聞こえる。もしかしたら此処は所謂天国とかいう所なのかもしれない。
天国や地獄というものは生きている人間の妄想に過ぎないが、魂の行き着く場所というモノがあっても可笑しくはないだろう。それが正しく生きている者に伝わる事は決して無いが。
”良いところだなー…”
何処か厳かで、写真でしか見たことの無いような宮殿にありそうな柱。日本人なのだからもう少し和風の想像は出来なかったのだろうかと思わず笑ってしまう。
不意に、人の声が聞こえたような気がして顔を其方に向ける。その音は確かに大きくなっていて、更には複数居る事が分かった。
ここまで来て不法侵入とかで訴えられる事は無いと思うが、これからどうすれば良いかも分からない。なので、誰かに聞こうと思い至った。しかし、これが私にとって難題だったようで、誰一人私の声に耳を傾ける事は無かった。初めは無視されて居るのかと思ったが、数人続くと首を捻った。
通った人達は黒いローブを着た外国人の子供。たどたどしい英語の自覚はあるけれど、それにしたって目も合わないなんておかしい。もしかして自分が見えてない?
”どうしよう…”
柱にもたれかかって頭を悩ませる。すると再び子供が数人やってきた。なにやら喧嘩をしているようだが。
「またあなた達なの!?」
「リリー!今日も美しいね!!これを見てご覧よ、この間買ったものなんだけれど、是非君にも見せたくてね!!」
「いい加減にしてちょうだい!」
聞こえてくるのは英語なのに、頭ではスラスラと言葉が理解できる。なんて都合良くなっているんだろうか。
それがなんだか可笑しくて、彼女達から顔を反らして空を見上げた。
それがこの不思議な7日間の始まりであるとも知らずに。
「危ない!!」
突然の叫び声。見えていない筈の私に伸ばされる手。そして、床に倒れた衝撃。