一日目


「いたたた…」

可愛い女の子にぶつかられて尻餅を付いた筈なのに痛いのは何故か膝などの体の前半分で。うつ伏せだった体を起こせば、焦った声が背後から聞こえた。

「リ、リリー!大丈夫かい!?」
「どうしたんだよエバンズ。突然走り出して」

走ってきた男の子二人は何故か私をじっと見ていて。先程まで認識されていなかった筈の自身に目を向ける二人に困惑する。

「…え?」
「どうしたんだいリリー。そんな瞳で見つめられたらいくら僕でも我慢出来なくなっちゃうよ!」
「ジェームズも懲りねえな…」

ポッと頬を赤くしたジェームズ(?)くんにガバッと音がするくらいの勢いで抱きつかれ、悲鳴を飲み込む。なんだ、何が始まったんだ。

「…」
「…」
「…」

抱き付いてきたものの何も喋らない丸眼鏡のジェームズくん。立ったままの黒髪のイケメンも目を見開いて無言。私はといえば、体を硬直させたまま声も出せない状態だ。

「…リリー?」
「エバンズがジェームズを殴らない…!?」
「も、もしかして何処かぶつけたんじゃ…!?頭とか!!」
「失礼だなオイ」

真剣な目で言われたので思わずツッコむ。日本語で話したつもりが出てきたのは英語で違和感を感じた。

「リリー!大丈夫かい?」
「大丈夫大丈夫。だから離れて下さい知らない変態」
「変態!?」
「いや間違いじゃねえだろ、なに驚いてんだよジェームズ」

コントみたいな会話だけれど、本人達は至って真面目だ。そんな収集のつかなくなってきた状況を変えてくれたのは、新たに現れた優しそうな男の子だった。

「あっ!漸く見つけた。ジェームズ、シリウス!」
「リーマス、なんだい?」
「なんだい、じゃないだろう。今日はレポートをやるから図書室に集合だって言っていたじゃないか」
「あー!」
「ったく、ほら行くよ」
「だ、だけどリリーが!」
「なんだい?」

リーマス(?)くんと目が合ったので、ニッコリと愛想笑いを浮かべて手を振る。取り敢えず一人になって冷静になりたい。

「ううん、なんでもないよ」
「そう?じゃあまたねリリー」
「え、あ、ちょっ…」

リリー!!と叫び続けるジェームズくんにも手を振ると、彼は一瞬動きを止めた後物凄い勢いで両手を振り返してくれた。イケメンとリーマスくんは何故か目を見開いていた。
彼等が廊下の角を曲がり、姿が見えなくなって辺りの気配が無くなった頃、私はポツリと本音を零した。

「……てかお前ら誰」

訳の分からない状況を一応脱したことに溜め息を吐く。そしてその時、自分の服装が変わっていることに気が付いた。
黒い服。視界の端にうつるのは赤みがかった綺麗な長い髪。あれ、この髪はさっき私に向かって手を伸ばしていた子のものではないだろうか。

「あれ?」

さっき自分で言っていたじゃないか。此処は魂が行き着く場所なんじゃないかって。なら私は幽霊にでもなったのではないだろうか。
何故見えなかった私が彼等に見えるようになったのか。何故あの女の子が居ないのか。むしろ何故私があの女の子になっているのか。
そこで一つの結論に辿り着く。




もしかして…
あの子の身体、乗っ取っちゃった!?




「ど、どうしよう」
”あーもう、ビックリしちゃったわ!”
「え!?」

突然聞こえた声に驚いて辺りを見回す。けれど周りには誰一人居ない。それに首を傾げると、声の主はクスクスと楽しそうに笑った。

”ふふ、驚いてるわね!勿論私だって驚いてるけど”

姿形は見えないけれど、声が聞こえて思わずビクつく。聞こえる、というよりも頭に響いてくるという感じで、こんなのは初体験だ。

「え、あ。ご、ごめんなさい!乗っ取るつもりなんか無かったんです!」
”ええ、分かってるわ。取り敢えず色々話す必要がありそうね。今日はもう授業も無いし、私の部屋に行きましょう?”
「あ、はい」

こうして、私は言われるがままに廊下を歩いたのだが、着慣れない服を踏んで何度も転けそうになったのは秘密だ。まぁ、多分バレてるけれど。
backnext

戻る