七日目
今日でリリーと、そしてセブルスとお別れだ。
基本的に曲がった事が嫌いなリリーが夜に寮を抜け出そうと言い出した。その気遣いが嬉しくて、だけれど切なくて。言われるがまま廊下を進み、月の見える塔の天辺まで登る。
「わぁ…」
其処から見えた景色は、日本では考えられない光景で。岩肌の見えた山や崖に囲まれた其処は、下を見れば底のない絶壁で、前を見れば大きく聳える山々。そして、空を見上げれば満天の星空が広がっていた。
”凄いでしょう?”
「うん…」
夜になって下がった気温。冷えた空気はどこか神聖さを醸し出していて、手が冷えるのも構わずに手摺りをギュッと握り締めた。
”ここね、一年の終わり頃に見つけた場所なの。少し嫌なことがあったりして一人になりたい時に来てたのよ”
この一週間、夢だったのかは分からない。けれど、知り合ってしまった彼女達に、幸せになって欲しいと思ってしまったから。
「リリー、お願いがあるの」
”…なにかしら”
「大切な約束、それこそ命が掛かった約束なら、裏なんてかかないで」
”…?”
「それから何があっても、誰かと縁を切ったりしないで。それが例え最低の言葉だったとしても」
”それは…”
「どうしてもリリーが無理っていうなら、私が殴りに来るから!」
”ふふっ”
「許さなくていいから、怒っていいから、見限らないであげて」
”…ええ”
暫く互いに沈黙した後に同時にクスリと笑みを零す。
”ふふっ、でも私結構短気だから。ユキ、早めに来てね?”
「ははっ、うん!」
死んだらどうなるかなんて今でも分からないけれど、段々と思考がぼんやりとしてくる。叶えられるか分からない、不確かな約束を二人で交わして。眠るように、ゆっくりと目を閉じ始めるとリリーが唐突に声をあげた。
”あら?”
「え?」
感じた気配に思わず振り向く。すると其処には昨日気まずい別れをしたセブルスがいて。
「…」
眉間に皺を寄せて、肩で息をするセブルス。走って探して来てくれたんだなんて、それだけで心が温かくなる。優しい彼を私では救う事なんて出来なかったな、なんて今更な心残り。
「…行くのか」
「…うん」
グッと更に険しい顔をするセブルス。それに眉を下げて苦笑。そんなに心配しなくてもすぐにリリーは戻ってくるってば。
「名前…」
「え?」
「お前の、名前は?」
顔を上げて真っ直ぐリリーではなく、私を見てくるセブルス。それにジワリと涙が滲んで。
「ユキ…」
「私は、私の名前は…ヨシダユキ」
「ヨシダ…ユキ?」
「うん」
ありがとうリリー。ありがとうセブルス。一週間っていう短い時間だったけれど、優しいアナタ達に最期に出会えた事、とても幸せだった。
瞳を閉じる。
頭が真っ白になって、そこで私の意識は途切れた。
「─…さよなら、またねユキ」
リリーの瞳から零れた一粒の涙。それがどちらのモノであったかは、リリーにも分からなかった。