六日目


あれから、外国人気質というやつか、ジェームズくんとシリウスがセブルスにチョッカイをかけようとする度に、学年や寮を問わず誰彼構わず彼らをはやし立てるようになった。その度に二人はカッと顔を赤くして踵を返すようになったそうだ。セブルスが眉間に皺を寄せながら語ってくれた。
リリーはあの時それはそれは楽しそうにしながら”なる程、そういう事だったのね”と呟いていた事は、セブルスは知らない方が良いと思う。噂を助長させる元凶となりつつある女子の中にリリーが加わるようになるのは、そう遠くない未来だ。…ごめん。
まあ、この噂がいつまで続くかは分からないが、これで少しでも彼らの仲が悪化しなければ良いと思う。(逆効果ではないと信じたい)

さて、現世に留まる事の出来る日はあとほんの一日に迫っている。初めて私とセブルスが話した時から色々な事を話し合ったお陰で、セブルスは随分と砕けた言葉や態度になったと思う。更にリリーが加わる事で、私は随分とこのホグワーツに詳しくなった。
そして、今日も私とリリーとセブルスは人目のつかない中庭で話をしていた。

そういえばとマートルの話をリリーにするとリリーに凄く怒られた。いや、昨日はすっかり忘れちゃって話せなかったんだよね。隣に座るセブルスの視線がまだ言ってなかったのか?と呆れた目をしているのは見なかった事にしといてあげよう。お姉さんだからね。

”なんでそんな大事な事忘れちゃうのよ!?”
「ご、ごめんリリー」
”セブは知っていたんでしょう!?狡いわ!”
「セブルス、リリーが狡いって」
「…はっ?いや、それは不可抗力であってだな」
”私ばっかり仲間外れにして!二人共酷いわ!”
「ご、ごめんってリリー。そりゃ早くリリーに体返してあげたいけど…」
”そうじゃないわ!!”

馬鹿っと叫ぶリリーに思わず口を噤む。セブルスにリリーの声は聞こえてないはずなのに、彼も溜め息を吐いた。

「…お前はリリーがそんな事で怒ってると思っているのか?」
「…え?」
”っ寂しいじゃない!たった一週間だけど、ずっと一緒に居たのに…。一番一緒に居たのに、知り合ったばかりのセブの方が先に知ってるなんて!”
「リリー…」
「…お前、何笑っているんだ」

笑ってる?うん、だってなんか嬉しくて。自分の体の心配じゃなくてただ寂しいと言ってくれるリリーに。リリーが怒っている理由が分かっているセブルスに。

「リリー、リリーは知らないと思うけどね。セブルスは一途なんだよ」
「なっ…!」
”なあに突然?でもそうね、ブラックみたいに誰彼構わずって感じでは無いわね”
「ううん、そうじゃなくて…」
「おい!!お前…っ」

バッと肩を掴まれて驚く。セブルスを見ればその顔は真っ赤に染まっていて、しまったと思った。後悔は後にたつ、なんて頭の片隅で考えて。

「ご、ごめんセブルス、そんなつもりじゃなかった」
「…」
”セブ?”
「ごめん…」

数十年思い続けるその想いがそんなに軽いはずなんてなかったのに。勿論私だってリリーにセブルスの想いを告げるつもりは無かった。だけど、その想いを少しでも、ほんの欠片ともリリーが知っていてくれれば、なんて思ってしまった訳で。完全に私の身勝手で、独りよがりの大きなお世話だ。

「…帰る」
「あ、うん…」

のそりと立ち上がった彼の表情は見えない。だけど、明日は会えるか分からないから。

「セブルス」
「…」
「たった数日だったけど楽しかった。ありがとね」

弾かれたように顔を上げるセブルスににっこりと笑う。彼は眉間に皺を寄せても怒ってるような表情をしながら口を開いて、何も発さずに口を閉じた。
そのまま踵を返して寮へと戻っていった。その後ろ姿をぼんやりと眺めていると、リリーが突然大きな声で怒り始めた。

”もう!セブったら何をあんなに怒ってるのかしら!”
「いやリリー、あれは私が悪かったんだよ」
”そうだとしても!ユキだって謝っていたじゃないの!なのにあんな態度とらなくてもいいじゃない!”

セブルスの素っ気なさに普段から思うところがあったんだろう。確かポッター君達に絡まれてる時のセブルスってリリーにも冷たかった気がするし。まあ、グリフィンドールでリリーが浮かないようにっていう何処までもリリーの為なんだろうけど。

「リリー、セブルスは嫌な事は嫌って言う人だと思わない?」
”え?えぇまあ、そうね”
「うん。だからさっきは嫌だって態度で示したんだよね。なら、そんな彼が最後はっきりとしなかったのはなんでだと思う?」
”さあ…分からないわ”

怒りもおさまったようで不思議そうな声を出すリリーに苦笑いする。本当に一方通行なんだなぁ。

「不器用なんだよ。きっと、誰よりも。」



「許したくてもプライドが勝っちゃって、うまく言葉に出来ないんだよ」



「頭に血が上ってる時なんか特にプライドが先立ってるから、思ってもないような言葉が出たりするんだよね」

きっとリリーと決別する決定打となったあの言葉だって、セブルスの本意じゃない。侮蔑の言葉というのは、普段思ってなくても頭に血が上ってる時は勝手に出てくる物だ。知ってる言葉の中で一番屈辱的そうなものが。

”…なんだか、やっぱり悔しいわ私”
「?」
”ずっと幼なじみで居た私よりも、アナタの方がセブのこと分かってるんだもの”

少し拗ねたように言うリリーに嬉しくなって笑う。

「ふふっ」
”なあにユキ”
「なら、これから知っていってあげなよ」

私の代わりに。私の分まで。

”…そうね”

そう思ったのがリリーに伝わったのかは分からないが、リリーの声が少し震えていた気がした。
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