宙までの布石

ガチャリ

「よぉ日々人、暫く世話になるぜ…」
「…ん?」
「えーと……どちらさま?」
「…そっちこそ。」

私、南波六太が訪れたのは弟、日々人の家。けれど扉を開けてくれたのは見知らぬ男でした。え?てか誰?
日本人のこの男は吉田ユウキと名乗った。歳は…二十代前半とみた。大学生とかだろうか。身長は低く、170は無さそうだ。
取り敢えず中へと促され、戸惑いながらもお邪魔する事にした。何時までも外にいても仕方がないし。荷物を取り敢えずリビングに置かせてもらってソファに腰掛ける。

「へぇー、日々人のオニーサンかぁ。」
「そういう吉田…さん?はルームメイトですかぁ。」
「あはは、呼び捨てでいいよ。てか俺もそうするし。」
「あ、まじで?」
「んー。それにムッタとは同い年だった気がする。」
「まじで!?」
「昔から童顔でさー。ビールでいいか?」
「あ、さんきゅ。そうだ、これ日本土産。」
「日々人のだろ?あ、俺もこれ好き。」
「うまいよなー。もしかして煙草吸ってんのって童顔だからとか?」
「あ、バレた?二十歳過ぎた頃に十代と区別するにはコレだ!って思ってな。ニオイ気になった?」
「いや?すれ違った時に少しだけな。だけど部屋が全く臭わねえから。」
「あー、日々人に煙草は駄目だろ。吸うとしても外って決めてんの。」
「へぇー。」

同い年ということもあってか、思いの外俺とユウキは話が合った。これはケンジの以来だ。

「ぶあはははは!本当かよそれぇ!」
「マジだって。んで俺がその後…」
「ぶっ!ひぃーひぃー!」
「………何やってんの?」

酒も進みテンションは最高潮。そんな時に声を掛けてきたのはこの家の主、日々人。

「よう日々人!」
「ムッちゃんて来るの今日だったのか。」
「んだよ忘れてんなよなー。」
「日々人が忘れてたんならそりゃ俺も知らねえわ。」
「はは、ワリーワリー」

日々人は荷物を置いたかと思ったら、ユウキの座るソファの背に周る。そしてそのまま後ろからユウキの首に抱き付いた。そして…

「ユウキ、ただいま。」

チュッ

ユウキの頬にキスをした。…え?

「んじゃシャワー浴びてくる。」
「あいよー。」
「ぇぇええええ!?」
「どしたのムッタ。」
「え?いや今…え?」

酔ってた?酔って幻でも見てた俺?
キッチンに行き料理を始めるユウキを呆然と見る。

「あーなんか最近スキンシップが激しいんだよね。」

スキンシップ!?あれをスキンシップと捉えるのか!?いや、確かに海外でほっぺにチューは挨拶だけど…。事態についていけずに頭を抱えていると、日々人が風呂から上がって上半身裸に肩からタオルを掛けてリビングに戻ってくる。そのまま日々人はユウキの後ろに周り、手元を覗き込んだ。

「ふぁー、今日の夕飯何?」
「パスタ。いいアサリが手に入ったんだよ。」
「お、うまそ。」
「んなことより服着ろ。もうすぐ出来るぞ。」
「はーい。」

チュッ



「ちょ、待てー!!」
「どうしたのムッちゃん。」
「ど、どどど、どうしたのじゃ無いだろ!なんだ今、チュッって…え!?」
「野暮な事聞くなよなームッちゃん。」
「なっっ!?」
「おーい出来たぞー。机の上片付けろー。」

そう言って大きな目をまん丸にして首を傾げるユウキは確かに可愛らしい部類になるんだろうが、正真正銘、男だ。

「おーいムッタ。」
「は!ワリィ、ちょっと待てよ。」
「んー、日々人は早く服着てこい。」
「うん。」

机の上を片付けながら日々人がリビングを出たのを確認して口を開く。

「あのー」
「なに?」
「ひ、日々人とユウキは恋人なの…?」
「俺と日々人が?まさか。お互いその気は無えよ。」

その言葉に嘘は見えなくて内心首を傾げる。まさか日々人、俺をからかったのか?悶々としながら食卓につく。
アサリのパスタ、オニオンスープにバケット、生ハムのサラダと彩り豊かな男らしい料理とは程遠い料理に舌鼓を打ちつつふと顔をあげると、日々人がユウキをそれはもう優しい顔で見ていて。
ユウキがビールのおかわりを取りに行くと、日々人と目がばっちりと合う。

「まあ見てろって。月に行くまでには射止めてみせるからさ。」

そう言って不敵に笑う弟に口元が引きつる。思わずユウキに手を併せてしまった。戻ってきたユウキが何で俺拝まれてんの?と言いながら笑ったのを見て、これは流されるタイプだなと頭の片隅で分析した。






今アニメの宇宙兄弟ハマってます。ムッタのキャラが好きです。両親の会話がツボです。
今回敢えての男主。時間軸としては日々人は月に行く前。ムッちゃんはまだ宇宙飛行士になってなくて選抜試験らへん。主の職業は大学の教授か医者。