確乎不動

※(多重)転生主。六年生と同期では組。取り敢えずものぐさ。結構忘れっぽい適当主。やれば出来る子。でもものぐさ。





空には月が登り、遠くの山から野犬の遠吠えが聞こえる。今日は随分と遅くなってしまったなと少し早足で風呂へと訪れた。

戸を開けばムワリと真っ白な湯気。それに目を細めて片手で戸を閉める。

「ん?留三郎お疲れー。随分と遅いんだね」
「おー、お前は相変わらず長風呂だなぁ。伊作なんてとっくに部屋に戻ってきてたぞ。」
「いいじゃん、どうせ他の学年も終わってるんだし。後は鍛練や任務で遅くなった奴らだけだよ」
「まぁそうだけどよ」

カラカラと笑うユキと身体を洗いながら今日一日の事を話す。委員会のこと、後輩のこと、昼間に見かけた伊作の不運ぶりなど。話がひと段落したところで俺もそろそろ湯に浸かろうかと桶を置く。

「ふー、私はそろそろ出るわー。あ、この後皆で酒盛りするらしいからおいでよー」
「おー了解」

ザバァとユキが立ち上がるところを何気なく視界の端に捉えて、思わず振り向いて凝視した。

「え」
「え?」

頭に乗せていた手拭いを軽く広げ、肝心な部分は隠れてはいる。だが、その姿はどう見ても。

「………………お前って女だったのか……?」
「は?うん。何を今更」

女の身体だった。
それを頭で理解した瞬間にバッとユキから顔を逸らす。視界にも入らないように少し俯きながら、必死に頭を回転させる。

「……は?え、?なに、…もしかして俺以外皆知ってるって事か?」

え、…え?何、どういう事だ?別にコイツが俺らを騙してたとかそんな事は思わないが。まぁそもそもコイツも騙すだなんて思い付きもしてなかっただろう。だからばれてもこんな堂々としている訳だし。

「皆?さぁどうだろう。私から話した事は…あったかな?あったような無かったような…」
「(こりゃ話してねぇな)」
「でも一年の頃から一緒に風呂入ってるんだから知ってるでしょー」
「(俺今の今まで気付いてなかったけどな!!!)」

でも言われてみれば確かに一年の頃からずっと風呂は一緒だった。最近になって任務や委員会などで時間がずれる事も増えたが、今日のように重なる事は勿論ある。寧ろ誘って一緒に行く時だってあった。つーか一昨日も一緒に入った。だがしかし…!

「んじゃお先ー」
「え、あっ、ちょ、おいっ…!」

パタン

ひらりと手を振りながら出て行ったユキに伸ばした右腕をそのままに呆然とする。

え、女って。
…………え?



「うわっユキ先輩っ!?」
「ん?鉢屋お疲れー」
「いやアンタお疲れじゃないでしょう!?本っっ当にアンタは慎みが足りない!なんで普通に風呂入ってんですかさっさと着物を着て下さい!!」

扉の向こうから聞こえる鉢屋の声に自然と耳を澄ませる。ぶへぇっとくぐもった声に手拭いでも投げられたんだろうと少し冷静になった頭で考える。

「……見なかった事にしよう」

ちゃぷりと肩まで湯に浸かって天井を仰ぎ見る。今更、本当に今更だ。

「はぁー…」

あの話ぶりから以前より鉢屋は知っていたようだ。という事は俺以外には周知の事実、という可能性もある。
どちらにしろ今更なのだ。

「今更、男も女も関係ねーよな」

男だから仲間な訳では無い。
ユキだから仲間なのだ。
それは男だろうと女だろうと変わりはないのだ。

決して俺だけ知らなかったのが不服な訳では無いのだ。