密室の観覧車
「観覧車乗りませんか?」
「え、今から?」
「ダメですか?私、江戸に来てそんなに経ってないので見てみたくて。」
「あー、別にいいけど。」
普通観覧車って夕方とか夜に乗るもんじゃねーの?なんて首を傾げる銀さん。まあ、確かにムードを考えたらそうかもしれないけど、それよりも明るい今のうちに江戸の街を見てみたかった。銀さんは江戸に詳しいし、あわよくば解説してくれないかなー、なんて思ったりしている。
観覧車の乗り場に行くとやはり客はおらず、直ぐに乗ることが出来た。徐々に上がっていくゴンドラ。アレだね。人がゴミのようだ!…違うか。
空が段々と近くなっていく。その空には今まで見たことのなかった船が空を飛んでいて思わず目を細めた。その光景はやっぱり夢みたいで、ぽつりと漏れた言葉。
「変。」
「へ?」
「やっぱり、船が空に浮くなんて変ですね。」
「あー、まあな。けど俺の原付だって空飛んだことあるんだぜ?今の時代、車だろうが電車だろうが空を飛ぶ時代、宇宙に行ける時代だぜ。」
「宇宙、ですか。凄いですねー。」
「あ、ほら。アレが税金泥棒の屯所。」
「え?どれですか?」
向かいに座って指を指されても全く分からない。
「ほら、あのー少しデカイ屋敷。」
「んん?」
どれ?どれなの?あれか?
「よっ。」
「わっ!」
銀さんが突然隣に座ってきた。外を凝視していたので不意打ちの揺れと傾きに驚いた。
窓に手を付いて外を見る私に分かるように、少し近付いて指を指してくれる。狭い。
「ほら、あれ。」
「あ、あー。アレですか。あっちだと思いました。」
「あっちは刑務所。んで、あの道をずーっと向こうに行くとお前んとこの甘味処。」
「へえ、結構近いんですね。知りませんでした。」
「あの辺が歌舞伎町。今は時間外だからあんま人居ねぇけどな。」
「まだ歌舞伎町行ったことないんですよね。」
「そうなのか?あ、彼処がウチ。」
「え?」
あ、万事屋銀ちゃん!あれが万事屋かぁー。
「坂田さん家って万事屋なんでしたっけ?」
振り返ろうと顔を向けてピタリと動きを止めた。予想外に銀さんの顔が近くにあって驚いたからだ。
「あ、…わり。」
「いえ…。」
わり。と言うわりに離れる気配がない。狭いと思っていたのはどうやら銀さんが背中に張り付いていたかららしい。
「…」
「…」
「…?」
何この状況。え?いや、何コレ。え?
「、坂田さん。」
「!あ、あぁ、そう。万事屋。」
はっとしたように離れた銀さんに少しホッとして息を吐いた。
「一人でやってるんですか?」
「いや。オタク眼鏡と胃拡張娘、あとはデカイ犬がいる。」
そう話す銀さんの表情は優しくて、私まで嬉しくなる。
「ウチの稼ぎは全て食費に回ってんの。良い迷惑だぜまったく。」
「はは。」
神楽ちゃんは酢昆布が大好物だとか、新八くんは眼鏡でお通ちゃんの大ファンでファンクラブの隊長をやってるんだとか、定春は天人でイチゴ牛乳飲ませると変身するんだとか、色々な話をしてくれた。悪態を吐くように零れる彼らの話は微笑ましい。
さっきまでの雰囲気は何処へやら。最後は笑ってゴンドラを降りた。
「あと乗ってないのってどれでしたっけ。」
「あ?あー、アレ、アレだよ。」
「あー、フリーフォール。」
「おー…平気か?」
「はい。あ、そういえばまだお化け屋…」
「さあ行っくぞー!!」
「うわっ」
グイッと手を引かれてフリーフォールへと向かう。少し小走りになって隣に並ぶ。あれ、銀さんてお化け屋敷……
「ああああ、アレだよ?別に苦手とかそんなんじゃねーよ?さ、先にフリーなんちゃらに乗ろうとだなぁ!」
「はい、制覇ですもんね。」
ひくりと引きつる銀さんににっこりと笑ってフリーフォールへと脚を進めた。
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