「ねえ駆!ユキちゃんと付き合ってるって本当!?」
「なんだよフラット。久し振りに来たかと思ったら不躾に…」

部屋で大学のレポートをやっていると勢いよく窓から現れたフラット。大人になって落ち着いたかと思ったのにそうでもないらしい。一度手を止めてベットに背を預ける。

「バクに聞いたんだ!」
「なんでバク!?つーかアイツもどっからそんな情報仕入れてくんだよ…」
「それで!?なんでユキちゃんが駆なんかと付き合ってるのさ!」
「なんかって何だよ。」
「だって、今やあの世界的バイオリニストの柊と共演できるまで成長してるんだよ!?なんでこんな甲斐性なしなんかと…」
「誰が甲斐性なしだ!」

俺は普通だ!あいつ等が特別なの!
そんな思いもかけて睨むとフラットはへへと笑った。

「でもまあ安心したよ。駆、歌ちゃんと別れてから上の空だったから。」
「んな事ねーけど…」
「そうだったの!だからさ、良かったよ。」
「フラット…」

知らず知らずのうちに心配をかけていたらしい。少し気恥ずかしくて頬を掻く。

「ところで、来月ユキちゃん帰ってくるんでしょう?」
「おお。」
「もうデートの計画は決めてあるの?」
「いや、まだだけど?」
「駄目だよ駆!会うの2ヶ月と3日ぶりなんでしょ!?」
「なんでそんな事知ってんだよ。」
「僕が完璧にコーディネートしてあげる!」
「…あんまり俺金無いぞ…」
「分かってるって!」

なんか懐かしいな、なんて思いながら一人(匹?)で盛り上がるフラットを見つめた。

「そんじゃあ、一つだけリクエストあんだけど。」
「何ー?」

遠距離だけど、お前は俺のだって伝えたくて。皆に知らしめたくて。そんな、思いを込めて。



────

「よっ。」
「久し振りだね小暮くん。」

昼過ぎに駅前で待ち合わせ。暫くは日本に居る予定だって言ったら、今日はのんびりしようって小暮くんは言ってくれた。なので今日は午後からのデートなのだ。

「だな。今日はフラット提案のデートコースだけどいいか?」
「フラットくんの?ふふ、楽しみ。」
「じゃあ…ん。」

すっと手を出してくる小暮くん。それをキョトンと見つめると少し拗ねたように赤面して私の手を取った。

「い、行くぞ!」
「へ?あ、うん。」

この間はサラッと恥ずかしい台詞とか行動していたのに、こんな事で照れた顔するなんて反則だと思う。
恐る恐る手を伸ばすとキュッと握られ、その手を引いて街へと歩き始めた。


最近出来たらしい植物園。そこでのんびりと花を見ながら途中、内接されていたカフェでお茶を飲んでまた園内を回って。

「可愛いー!ね、小暮くん!」
「あ、あぁそうだな。」
「あ、こっちは色違いだって。可愛いねー。」
「お、お…」
「…え?」
「お前の方が可愛いぜ…!」
「…」
「…」
「ぶはっ」
「なっなんで笑ってんだよ!」

赤かった顔を更に赤くして怒る小暮くんに思わず爆笑。だ、だって…!

「ははっ、だってそれっ…、フラットくんのアイデアでしょう?…ぶくくっ…」
「そ、そうだけど…っていい加減笑うの止めろよ!」
「ごめっ…はー、ごめんごめん。」
「で?なんで分かったんだよ?」
「だって小暮くんらしく無いもん。」
「あ?」
「小暮くんにそんなキザな台詞、似合わないよ。」

海外に移り住んでから周りの男の人達が当たり前のように誉めてくれて、最初は赤面していたけれど挨拶の一つだと理解するようになった。日本の男の人は口下手だって本当なんだな、って実感した。
だからといって日本人の、特に親しい人が突然言い始めたら笑い話でしかなくて。

「…別に、無理して言った訳じゃねーよ。」

笑いすぎで溢れた涙を指で拭き取っていると、小暮くんが口を尖らせて拗ねたように呟いた。

「確かに提案したのはフラットだったけど、本当に思ったんだよ。」
「え。」
「〜〜っ、もう行くぞ!」
「あ、うん?」

グイグイと引っ張られながら小暮くんを見上げる。ちらりと見えた耳は真っ赤に染まっていて、私は顔を綻ばせた。


夕食は私の希望でラーメン。きっとフラットくんのデートコースだと洒落たレストランとかに行くんだろうけど、私はもっと気楽がいいし、普段はなかなか行けないから。
食べ終わって空を見上げるとすっかり真っ暗になっていて、少し冷えた空気が気持ちいい。

「少し歩こうぜ。」
「うん。」

明日は朝から打ち合わせがあるから、実家に帰る予定。もう少し一緒にいたいなぁなんて思いながら、薄暗い公園を歩く。開けた場所に出ると申し訳程度にライトアップされた噴水があった。すぐ目の前まで歩いていき、小暮くんは噴水の縁に腰掛け、私は中を覗く。

「落ちるなよ。」
「落ちないよー。色が変わって綺麗だなぁって思って。」
「ふーん?」

そういうもんか、なんて一人納得している小暮くん。見るのも満足したので、小暮くんに倣って私も腰掛ける。
ザアザアと流れる水の音に耳を傾けながら空を眺めていると、ふと右手に温もりを感じる。視線を落とせば壊れ物を扱うかのようにそっと触れてきた手があって。

「あの、さ…」
「ん?」
「本当は夕飯に洒落たレストランとか入って、其処で話そうかと思ってたんだけど…」
「、うん。」
「ずっと考えてたんだ。俺達って遠距離だろ?一緒にいたいって思うけれど、俺は日本で、お前は世界中でやりたいことがあって、譲れない事がある。」
「…うん。」
「どんなに連絡を取り合ったって、抱き締めあったって、隣に居ないっていう不安は拭えるものじゃないよな。」
「…」
「だからさ、コレ。」

ポンと渡された小さな箱。促されてリボンを外して開けると、そこには指輪が入っていて。

「俺はまだまだ自立なんか出来てないガキで、結婚とか婚約なんて全然考えられねえ。」
「っうん、」
「けど将来、生涯一緒にいたいって思うのは後にも先にもお前だけだって思うから。」

触れていただけだった手はいつの間にか指と指が絡み合っていて。真剣な横顔は、私の目には滲んで見える。

「既に夢に向かって着実に歩いてるお前だから、随分待たせると思う。だけど、俺は本当に、お前のこと…ユキのこと、好きだから。」
「う、んっ」
「だから、コレは予約な。」

箱から指輪を出されて右手の薬指にそっとはめられる。下を向いたお陰でポロポロと流れる涙。

「お前は俺のだ。」

一瞬触れた唇に再び涙が溢れ出して。それを見て小暮くんが苦笑して。涙はそのままに、手を握って私達はもう一度、今度は深く口付けを交わした。





小暮くん大学生設定でスミマセン。いや、あんまり生かせてないけど。主が小暮を名前で呼ばないのは恥ずかしいから。いざという時に名前呼びするので、小暮くんはたじたじ。
見たのが昔すぎてフラットくんとか話し方不安です;リクありがとうございました。