「ごめんくださーい」

ガラガラガラ

「は、はーい!」

パタパタパタ

「こんにちは。あれ?もしかして土方さんの小姓さんかな。」
「は、はい!雪村千鶴といいます!」
「はは、元気だねえ。私は吉田ユキです。土方さんはいらっしゃいますかね。」
「ひ、土方さんですか?只今呼んできま「来たかユキ」…!土方さん!」
「ちわーっす。」
「ちわ…?お前は毎度毎度変な挨拶しやがって。」
「土方さんも毎度毎度面倒なのに呼ぶじゃないですか。言っときますけど、私は善良な一般人なんですからね。」
「はっ。」

鼻で笑う土方さんに思わず身を縮こませると、吉田さんは少し笑って私にお礼を言ってくれた。そのまま吉田さんと土方さんは軽口をたたきながら、けれど仲良さそうに土方さんの自室へと向かって行った。土方さんにあんな口聞ける人がいるなんて驚いたな。
お茶を用意して運んでいる途中、沖田さんに会った。お客さん?と聞かれたので応えると、沖田さんは普段の意地悪そうな笑みでは無く、近藤さんに見せるような笑みを浮かべた。

「そっか、ユキちゃん来てるんだ。僕も行くよ。」
「沖田さんも吉田さんとお知り合いなんですか?」
「うん。僕らがまだ新選組になる前だから…一年くらい前かな。大通りにある饂飩屋で働いている子なんだよ。」
「そうなんですか。」

私は江戸に来てから間もなく新選組に捕まって外には出られない状態だから、その饂飩屋さんは知らない。それにしても吉田さんと話す土方さんは楽しそうで、一年ほどの短い付き合いだとは思わなかった。

「まあ、彼女はそれだけじゃないけどね。」

至極楽しそうに呟かれたその言葉に首を傾げると、沖田さんは何も無かったようににこりと笑った。
沖田さんに続いてに廊下を歩いていると、前方ひ土方さんが立っていた。その土方さんは外を楽しげに眺めている。

「?土方さんこんな所でどうなさったんですか?」
「土方さん、ユキちゃんは何処です?」
「さてな。今は上じゃねぇか?」

上?首を傾げて上を見上げると、ガタッと音が響いた後にドサッと人が落ちてきた。

「きゃあっ!?」
「くっ…」
「大丈夫?丞くん。」
「っ、…はい。」
「くくっ、おいユキ!」

土方さんが笑ってから声を張り上げると、屋根の上からヒョコッと吉田さんが顔を覗かせた。思わず肩が跳ねる。

「呼びましたー?」
「あぁ。」
「なんすか?」
「取り敢えず降りてこい。」
「土方さんは命令ばっかですね。」
「お前は駄々ばっかりだな。」
「土方さんは私の上司じゃないですからねぇ。」
「んなこと言ってる奴には茶菓子は無ぇぞ。」
「もー怒りんぼさんですねぇ。すぐ行きますって。」

おこりんぼ?聞き慣れない言葉な首を傾げていると吉田さんは身軽に、音もなく地面に降り立った。その姿は先程会った時と同じ着物姿で、凄いと思わず呟いた。
そのまま彼女は土方さんに続いて部屋へと入って行った。それを楽しそうに眺めてから沖田さんが続き、一つ溜め息を吐いた山崎さんが続いた。それにハッとして、私もお茶を持って行く。
部屋に入って膝を立て、一人一人にお茶を配る。その途中で土方さんが幾つかの大福を取り出し、吉田さんはそのうちの一つを懐紙に取って私に差し出した。

「え…」
「千鶴ちゃんは大福嫌い?」
「い、いえ!けど…」
「大丈夫、貰っとけ貰っとけ。」

ぐいぐいと差し出してくるので思わず受け取ると、彼女はにっこりと笑った。私は困ってしまって、思わず沖田さんと土方さんの顔色を窺った。

「はあ、お前が言うな。」
「はは。いいんじゃない?貰っときなよ千鶴ちゃん。」
「えっと、じゃあ、頂きます。有り難うございます土方さん。」
「あぁ。」

ぺこりと頭を下げて、残りのお茶を配る。その間に吉田さんが大福を一口食べて首を傾げた。

「なんで大福のくせにしょっぱいんですかね?」
「はあ?」
「君は本当に甘いものが好きだね。」
「いや、大福は甘いものですよ。」
「いや違えだろ。」
「時々君がどこかの大名の娘なんじゃないかと考える時があるよ。」

溜め息を吐く沖田さん。砂糖を使った甘味は高級品。それを日常的に食べていたとなると沖田さんの言うことも納得出来るな、なんて思いながら頭を下げて部屋を後にした。
結局沖田さんの言っていた意味は分からなかったけれど、土方さんがあんなに楽しそうにするのを見たことが無い。
私も仲良くなれるかな、なんて思って頂いた大福を見つめて頬を緩めた。

「…あれ?そういえば名前…」







(お前千鶴が女って分かってたのか)
(え?あれ男装でもしてたの?)
(ははは)




お待たせしました!忍術使わなくてスミマセン。
山崎くんの師匠になりました。時々来ては稽古をしてお茶をしながらポロリと重要事項を零していきます。
リクありがとうございました。