※『キミへの対処法』続編。



まるちゃん達が花輪くんの七夕パーティーへとご招待されていた丁度その頃。我が家ではささやかなパーティーが行われていた。

「おばさん、凄ぇ美味かったです!ご馳走様でした!」
「ふふ、お粗末様でした。ユキ、飲み物とか持って行きなさいよ?」
「うん。大野くん先行ってて。」
「あぁ。」

大野くんが部屋に向かったのを確認してから、昼間に作っておいたクッキーをトレーに乗せる。本当はケーキとか懲りたかったんだけど、小学生の子供が一人でそう凝ったものを作るわけにもいかず。プレーンと抹茶の二種類を星形の型で抜いた。
グラスに氷を入れて、冷やしておいた紅茶を注ぐ。それもトレーに乗せて背伸びをしながら机の上から慎重に運び出す。…背が低いんだよ!
ヨタヨタと自室まで運んでいく。扉の前に差し掛かると、ガチャリと扉が開いた。

「ありがとー。」
「大丈夫か?」

そう言いながら扉を背で抑え、ヒョイッとトレーを持ってくれた。そのまま部屋に入ると、大野くんも後に続いた。…なんでそんなスマートなの!

「お、美味そう。」
「ほんと?良かった。」

クッキーはお手軽に出来るお菓子だけれど、抹茶とかはやっぱり好みがあるし。

「これユキが作ったのか?」
「うん。」
「すっげーな!」

ニカッと笑う大野くんにつられて私も笑う。絨毯の敷かれた床に直座りすると目の前にトレーが置かれ、すぐ隣に大野くんが座った。

「食っていい?」
「うん。」

大野くんが一口でパクッといったのを確認してから私も一つ掴んでかじる。うーん、甘味抑えすぎたかなぁ。私はコレくらいが好きなんだけど。

「美味い。」
「甘さ少なかったかなーって思ってるんだけど。」
「そうか?俺はこれくらい好きだぜ。」

ペロリと指を舐めながら大野くんは言った。

「そ…っか、ありがとー。」

こんなストレートに褒められると、なんだかコッチが気恥ずかしくなってしまって。誤魔化すように視線をずらし、ストローをくわえて紅茶を啜る。
窓際には笹飾りが飾ってあって、色とりどりの短冊が吊してある。テレビがついている訳でも、ラジオが流れている訳でもない静かな室内。開けていた窓から生暖かい風が入ってきて、風鈴がチリンチリンと鳴った。
窓際に行って空を見上げながら思い出したように世間話を始める。

「まるちゃん達今日は花輪くんの家でパーティーなんだって。」
「へぇー。…行きたかったのか?」
「うーん、まぁ花輪くんの家は一度くらい見てみたいかなぁ。」
「ふーん…。」

声に疑問を感じて大野くんを振り返る。

「ユキ」
「大野くん?」

少し拗ねた表情をした大野くんが近寄ってきて、隣に座る。優しく、でも少し強く握られる手に、嫉妬してくれたのかななんて思う。

「なあ…」

チラリとお皿を見れば、クッキーはすっかり数枚に減っていて。

「いい加減、その呼び方やめろよ。」
「え。」

笹飾りを指指すので見てみれば、昼間には無かった短冊が吊してあって。

『名前でよばれたい    大野けんいち』


……
………

「ぶはっ」
「…なんで笑うんだよ。」
「くくっ…、だって、それくらい言えばいいのに…。短冊にお願い事って…!」

声を殺して笑う私に大野くんは益々拗ね始める。顔は赤いから恥ずかしいのもあるんだろうけど、なんだか微笑ましい。

「ごめっ、もー拗ねないでよー!」
「うるせー!拗ねてねーよ!」
「ごめんって”けんいち”!」
「!!」

そう呼んだ時の彼の顔は真っ赤。目を見開いて口もぱくぱくとさせていて。

「っ帰る!」
「え。」
「じゃ、じゃあまた明日な!」

勢い良く立ち上がると、言葉少なに部屋を飛び出して行った大野くん。バタバタと階段を駆け下り、お母さんに挨拶をして帰って行った。
外に目を向ければ駆け足で出てきた大野くんが、チラリと視線をコッチに向けたのが暗がりに見えて。笑って手を振れば、大野くんは一瞬動きを止めた後片手をあげ、そのまま背を向けて駆け出して行った。

「…可愛い」

その数分後、再び眺めた笹飾りの中にもう一つ見慣れない短冊を見つけて、キュンとしたのは別の話。




『ずっと一緒にいられますように。』

大野くんの名前の隣に、そっと自分の名前を並べて書いた。






遅くなりました。小学生らしい甘さ…?久しぶり過ぎて主のキャラが変わったような。季節物でスミマセン。リクエストありがとうございました。