あれから何度目かの夏。おばあちゃんのお誕生日兼命日、更に言えばOZでの出来事のあったあの日、本家では毎年のように集まりが開かれていた。
なんだかんだ健二くんも毎年来ていて、大学生となった今では昔に比べて幾分逞しくなったような気がしないでもない。そういう私も来年大学卒業を迎える女子大生だ。
シュルシュルと野菜の皮を剥く隣に立って、鍋を揺する。甘辛い香りが食欲をそそる。直美さんはさっきから摘み食いしてるし。

「そういえば理一は?」
「あ、そろそろ来ると思う。少し遅れるって言ってたけど。」
「ふーん…。ねぇ何時からだっけ?アンタ達が同棲し始めたのって。」

ニヤニヤと笑う直美さんにほんの少しだけ動揺。未だにこの手の話は慣れなくて困る。

「ちょ、やめてよ直美さん〜!」
「いーじゃない。そんなの今更よ!ね、奈々ちゃん。」
「私も気になります〜!」
「うー…、大学入ってから…」
「えぇ!?アイツ高校卒業まで我慢出来た訳っ!?」
「がっ、我慢とかそんなんじゃないでしょ!もーやめてよ!」

顔が赤くなるのを抑えることが出来ずにいると、玄関から声が聞こえた。

「あ。旦那じゃないのー?」
「旦那って…弟でしょう。」
「いーのよ。ユキの事をからかってんだから。」
「ヒドッ」

もー、と口を尖らしながらエプロンを外して、一人玄関に向かう。すると其処にはやっぱり理一さんが来ていて。靴を履いたままコッチを向いて微笑んだ。そんな小さな事が嬉しくて私も微笑む。

「お疲れ様ー。早かったね?」
「んー、」
「わっっ」

突然手を引かれて抱き締められる。咄嗟のことで驚き、顔に熱が溜まる。

「ちょ、…理一さっ、此処玄関っ」
「ふ、ごめんごめん。姉さん、ユキ連れ出してもいいよな?」
「えっ」

後ろを見れば曲がり角から顔を出す面々。誰もいないと思っていただけに再び顔に熱が溜まる。

「あはっバレてた?いいわよ、奈々ちゃんがやってくれるから。」
「私ですかぁ〜っ?」
「じゃ、行こうかユキ。」
「え、えっ?」

にやつく皆を残したまま、理一さんに手を引かれて外へ。


暫く歩くとおばあちゃんが大事にしていた畑が見えてきた。おばあちゃんが亡くなってからも手入れは行き届いているようで、野菜やぶどう、梨などが瑞々しく熟れている。
もう少し進むと朝顔畑が広がっている。其処で理一さんがふと足を止めた。

「わぁ、今年も咲いてる。」
「だな。」
「キレー…」
「ユキ」
「え?…っ」

振り返った理一さんを見上げると、突然口付けられる。初めは啄むように。徐々に深く、深く。

「んっ…ふ…」
「好きだ…」
「っ、んっ」

最後に触れるだけの口付け。そのあとコツンと額をあわせてくる。気恥ずかしくて、理一さんの顔を直視できない。チラリと見た理一さんの瞳は優しく細めていて。

「あ…」

左手をそっと取られ、薬指に違和感。半歩離れて手を見ると其処にはキラリと光る指輪があって。虫除けだって言われてはめていたピンキーリングと並んで付けられた其れに涙が溢れてくる。
理一さんはもう一度私の左手を取り、そっと薬指に口付けた。

「ユキ」
「ん…」
「結婚、しよ。」
「っうん…!」

ポロポロと溢れてくる涙を止めることなんて出来なくて。理一さんがホッとした表情をしたのに泣きながら笑って。ぐしゃぐしゃに泣きじゃくりながら理一さんに抱き付いた。






(ばあちゃん、俺達結婚するよ)
((((ええっ!?))))
(えへへ)